第十二話

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 オミオツケさんは、唇を固く結んで不機嫌そうに去っていく店員を睨みつける。 「まあまあ」  レンレンもその気持ちは読み取ることが出来たようでオミオツケさんを宥める。 「お店で働いてる人が全員、エガオを知ってる訳じゃないでしょうから」  レンレンの大人な発言にオミオツケさんはぐっと喉を鳴らす。  そんなことは分かってるけど……。 (なんか悔しい) 「それよりも見てください。とても美味しそうですよ」  レンレンに促され、オミオツケさんは目の前に置かれたフレンチトーストを見る。  艶やかな黄色のフレンチトーストは見事減作通りに再現されており、エガオが持っていた固いパンをカゲロウが丁寧に調理し、フレンチトーストとて提供するシーンが呼び起こされる。 「冷める前に食べましょう」  レンレンは、少し固いが和やかに笑みを浮かべて言う。  その笑みにオミオツケさんは、頬を薄く赤らめて「うん」と頷き、食べ始める。  柔らかい……甘い……そして美味しい。  小説で初めてフレンチトーストを食べたエガオの気持ち。涙を流しての喜び。このフレンチトーストはまさにそれを体現していた。
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