第十五話

3/7
前へ
/174ページ
次へ
 アレだけ息子にはアレルギーがあると言ったのにこれはどう言うつもりだ、と。  しかし、女性は、両親の怒りを無数の針のように受けても笑みを絶やさなかった。 「このパンケーキは息子さんの為に作ったパンケーキです」  そう言ってからレンレンに目を向ける。 「どうぞご賞味ください」  そう言ってレンレンに優しく微笑んだ。  その笑みはレンレンの傷んだ心を動かすには十分すぎるほどに温かいものだった。  気がついたらレンレンはナイフとフォークを使ってパンケーキを口に運んだ。  レンレンの両親はそれを見て悲鳴を上げる。  女性は、じっとパンケーキを食べるレンレンを見る。  レンレンの目が大きく、大きく見開く。 「あ……っ」  震える声が小さく漏れる。  母親は、慌てて吐き出させようとし、父親は発作時の薬を準備しようとする。  しかし……。  レンレンの目から涙が溢れる。  頬が、唇が、身体が震える。  それは発作ではなく……歓喜の震えだった。 「甘い……」  レンレンは、ぼそりっと言う。 「美味しい……」  レンレンの目に星屑のように輝く。  レンレンは、弾けるように顔を女性に向ける。
/174ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加