第十八話

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 温かな風が心の脇を通り抜けていく。  レンレンは、二人席に近寄り、椅子を引く。 「座ってください」 「でも……」  オミオツケさんは、躊躇う。 「いいから座って!」  レンレンは、声を上げる。  オミオツケさんは、身体を一瞬、震わせて、そのまま言う通りに椅子に座る。 「待っててください……」  レンレンは、そう言うと厨房に入っていく。  厨房の中から熱と湯気、そして食欲を誘う甘く深いに匂い漂ってくる。  彼と出会ってから何度も嗅いだ匂い。  みそ汁の匂い。  胸がぎゅっと締まる。  レンレンが厨房から出てくる。  その大きな手には湯気上がる黒いお椀を持っている。 「お待たせしました」  お椀がテーブルに置かれる。  その中身は間違いようのないみそ汁。  ワカメと豆腐と輪切りにされた長ネギの入ったシンプルな、しかし、いつまで見ていても決して飽きることのないあまりにも美しいみそ汁。  しかし……。  オミオツケさんは、レンレンの顔を見上げる。 「湯気……上がってるよ」  これでは現象が起きた時に大火傷してしまう。  しかし、レンレンは和かな笑みを浮かべる。
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