第十九話

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第十九話

 オミオツケさんは、みそ汁を食い入るように見て、恐る恐る両手を伸ばす。  優しい温もりのお椀を抱きしめるようにそっと両手を添える。  その瞬間。  みそ汁の中でワカメと豆腐と長ネギが渦を巻いて回転する。  茶色の汁が大きく波打ち、粘土のように丸まっていくと宝玉のようになって宙に浮かび上がる。  オミオツケさんの顔に絶望が浮かぶ。  宝玉のようになったみそ汁は歪み、伸び、形を整えながら人形に変わっていき、ワカメは髪に、豆腐は鎧にして輪切りになった長ネギは重なり合って大鉈に姿を変える。  それは見間違うことのないエガオが笑う時の主人公、エガオの姿であった。 「ああっ……」  オミオツケさんの口から泣くように声が漏れる。  やっぱりダメだ……。  結局、私には出来ないんだ。  みそ汁を飲むことなんて私には出来ないんだ。  レンレン君と一緒にいる資格なんて私にはないんだ……。  オミオツケさんは、絶望と失望の中、お椀を握った手を緩めてしまう。  刹那。  オミオツケさんの両手にレンレンの大きな手が重なった。  オミオツケさんの顔が真っ赤に染まる。
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