第一話

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 A定食を舐めるように食べ終えたスポーツ女子が文系女子のお皿から黄色い皮を少しだけもらって口に運ぶ。 「舌触りがとても滑らかで微かに甘味がある。これって……お野菜?」  答えを求めるようにスポーツ女子は皿を片付けに来たレンレンに声をかける。  普通は厨房の隣に設置した棚に食器を戻してもらうのだが、レンレン定食を頼んだ生徒には感想を聞く為にレンレンが取りに行く。 「正解」  レンレンは、二人の前の食器を片付けながら答える。 「かぼちゃとスイートコーン、そして木綿豆腐をフードプロセッサーにかけて生地にしたんです。なるべく卵に似せようと薄くしたんだけど……」  レンレンは、申し訳なさそうに眉を顰める。 「まだまだ、卵にはほど遠くてモドキの域を超えてません」  レンレンは、文系女子に目を向ける。  突然、目を向けられたことに文系女子は驚く。 「今は、こんな物しか作れなくて……もっと卵に近づけるように精進するので、もう少し時間を下さい」  そう言って深々と頭を下げる。  レンレン定食をどんなに美味しく食べてもらえてもまだまだ本物には敵わない。  美味しさで相手を騙してるだけなのだ。
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