盗み聞き

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 休憩室にいる男性社員は、好みの女性の髪色について話しているようだ。 「おれは茶色。柔らかそうだし、何か性格までふんわり優しそうな感じするから」 「オレは金までオッケーかな。因みにオレは、気が強い女が結構好きかも」 「僕は……何て言うんでしたっけ、あれ。チラッと見えるピンクとか可愛いと思うけど」 「ああ、あれか? インナーカラーってやつ」 「そう、それです!」 「俺は絶対黒だな」  福永まどかは、ひとりカフェラテを飲みながら聞き耳を立てていた。 「おれは水色かな」 「オレは赤!」 「僕はやっぱピンクですね」  やはり男が集まるとろくな話をしない。 『デート』や『初めて』などのワードが飛び交っていたかと思うとヒソヒソ話を始め、いつの間にか下ネタに移っていた。  その中に中原康生がいると思うと、少し複雑な気分ではあった。  彼は、まどかの意中の人だ。 「お前ピンク好きだなあ」 「ピンク髪でピンクなんてたまんないですよ。男心擽られまくり」 「康生は?」 「え、俺?」  そんな馬鹿げた話だけれど、それでもやはり気になって仕方がなかった。 「俺はやっぱ……」  まどかは持ち上げたカップの柄を握りしめ固唾を飲んだ。 「黒」 「「「絶対言うと思った!!」」」 「だって黒って大人っぽくていいじゃん」 「てかさ、黒が似合う女って何か色っぽくね? うなじのチラ見せとかたまんねえよな」 「「「いい! すげえ好き!!」」」  それを聞いたまどかは、がっくり肩を落とした。小柄で童顔の容姿が、大人っぽさとはかけはなれ過ぎていたからだ。  黒髪の女であることがせめてもの救いだろうか。
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