目薬

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私はある日、すっきりしたくて、目薬をさした。 チェーン店に売っているただの普通の目薬だ。 なじませるために目を閉じて、ゆっくり開いた。 それからというもの、親しい人の善悪の悪の部分が見えるようになった。 短い言葉が黒い文字で漫画のセリフのように、その人の頭の上に出るようになった。 最初は戸惑ったが、今では慣れて、本音が知りたい時に目薬をするようになった。 これがまた、意外な本音が知れて人の断捨離が気持ちよく行える。 学生時代の友人達としばらくぶりに集まろうとお店に来た。 私は早く着いてしまい、先に予約席に座って待っていた。 「久しぶり~」 軽く手を振りながら、彼女がやってきた。 「ほんと、ほんと~」 彼女はいつもにこやかで、みんなに優しい人だ。 「変わらないね~」 思い出通りの彼女に私はほほ笑んだ。 だが・・・ (相変わらず、すました顔ね。学生時代、私があたふたしてるときでも・・・) にこやかなままの彼女の頭の上に文字が出ている。 (えっ・・・) まさか彼女からそんな風に思われているとは驚いた。 次々に友人達が合流し、楽しい時間が流れ出した。 ただ・・・ 時折彼女の頭の上を見ると、たくさん黒い文字が所狭しと浮いている。 (今は私の方が恵まれてるわ。) (残念ね、離婚。うふふ・・・) 後から来た友人達にも笑顔を向けながら、ひどい言葉を浮かべている。 (もう残り少ないな・・・) 無くなると困るかなと思い、同じ店で同じ目薬を買った。 だが、まったく普通の目薬で、文字が見える事はなかった。 (これだけなのね。) 私はかろうじてゆれる残りの量の目薬を見つめた。 私は会社の同期の主人と結婚し、三年目。 仕事を選ぶか、子供を作るかを夫婦でもめている。 私は仕事がしたい、彼は子供が欲しい。 少しずつ仲がずれ始めている頃、仲良くなったある女性の後輩に 軽く話をしていた。 その子も含めた会社の後輩達が遊びに来る。 食事を終え、コーヒーを飲んだいた。 主人と後輩は向かい合わせで座っている。 私は 「ちょっと目が・・・」 席を立ち、あの目薬をさした。
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