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夫から、嫌われたくなかったのよ。
ものわかりのいい妻でいて、一緒に暮らしたかったの。外でいっぱい女を作っても、自分を愛してくれてるのも本当のこと。女には、もうその男しかなかった。
だけど男のほうは勝手よ。自分は浮気をするくせに、妻には貞淑を求めた。妻が水商売あがりだから、過敏になってた気もする。
もし妻に子供がいると知ったら、男は自分の妻を孕ませたやつに嫉妬する。きっと女のことは見限って離婚する。それがわかってたから、女は子供の存在を徹底して隠したわ。
女は夫が好きなの。離婚したくないの。自分さえ我慢すれば、夫婦は安泰だと信じてる。
でも、娘には会いにいってしまうのよね。会うと言っても、遠くから見て、こっそり写真に撮るだけ。声は決してかけない。かける資格はないと女は思ってる。
高校を卒業したら、娘は行方をくらませた。遠くの大学に進学したってことはあとで知った。いなくなった時は、心に穴があいたようでね。隠し撮りの写真を見てすごす日々よ。
その間も夫の会社は大きくなっていった。夫の浮気も盛んになって、水商売の女相手に夜をすごすの。
子供ができて大騒ぎになる可能性はない。だったら、夫には好きなようにやらせて、その女は自分の巣を守ることに専念したのよ。
その女はね、自分に経営の手腕はないとわかってたの。スナックをやってたころ、売り上げが落ちこんだら、心配がたたって食事がのどを通らなかった。心がもたない。
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