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遠藤由香理。それ以外の情報はナシ。だが、由香理の勤め先はすでにわかっている。
ビンタを食らい、立ち去り際に「無礼者」や「おまえ」と高飛車に言われたていどでへそを曲げるほど俺は青くない。ここまで資料が整っている仕事を断るほど馬鹿でもない。
いかにも浮気をしそうな男の女関係を明らかにする。しかも、相手が誰だかもわかっている。こいつを洗うだけでいい。マダムの勘は間違いないと告げ、俺が夫の写真から受けた印象はスケベなちょいワルおやじ。
こりゃあ、決まりだな。二人を尾行し、ホテルに入るところ、あるいは出てきたところを写真に撮るだけで三百万。もうひとがんばりして、プレイ中の部屋に乗りこめば五百万。
それなりの地位に就いた男がラブホテルにしけこむとも思えない。フロントで偽の警察手帳をちらつかせ、薬物所持の疑いがどうのとまくしたてれば、スペアキーの入手も夢ではない。
俺は三十半ばまで、本物の刑事だったんだ。昔取った杵柄で、老練な刑事を演じるくらい楽勝だ。なんせ五百万のためだ。身分詐称の危ない橋を渡る価値はある。おいしい仕事が転がりこんできたな。
それにしても、マダムのエキセントリックなことよ。多少性格に問題があったとしても、あの美しさだ。浮気などせず、愛のある家庭を維持していれば、ちょいワルおやじは、離婚の危機を招かずに済んだのにな。
まあ、三十年も前に妻に愛想をつかされた俺が言っても説得力に欠けるが。
さてと。女好きのおっさんの心配をするよりも、自分の財布をふくらませるほうが重要だ。俺は喜久川原鉄之助の調査を開始した。
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