身辺調査

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 尋ねると役職は課長とのことだ。四十歳前後で上場企業の課長。十分に満足いくポジションだと思うが、キクてつは社長が四十七の若い会社だ。しかもこの男は役員になっていてもおかしくない社歴なのに、課長。このあたりに、探偵の調査になど協力しようとした背景がありそうだ。  そいつがいきつけだという小料理屋の奥の座敷で、なにに対してかわからない乾杯をする。ビールを二本、銚子を三本飲み干してから、男は話に本腰を入れた。    えっと、オレが言ったってことは、本当に秘密にしてもらえるんだろうね。まあね、オレはもうあの会社を辞めるつもりだから、別にバレたっていいんだけどね。今から言うことはウソじゃないし。  ホテルでさ、三年修業したんだよ、オレ。フレンチのシェフになりたくて。でもそのホテルが外資に吸収されちまって、コック総入れ替えになったんだ。料理人への夢は捨てきれなかった。でも、オレを雇ってくれる店はない。  いろいろ探してた時に料理人募集の張り紙をみつけた。それが「鉄板焼き キクてつ」だったんだ。貸しビルの一階で、社長本人が肉やエビを焼いてた時代の話だよ。  もう金が底をついて、フレンチにはこだわってられなくてな。鉄板焼きでもラーメンでも、なんでもやってやろうって気分だった。社長もキッチンカーで商売始めた時は、そんな気持ちだったんじゃねえかな。  オレはフレンチだったけど、社長はイタリア料理を修行したらしいよ。そこそこ腕前をあげたら店が潰れた。普通、そうなりゃ自分でイタリアンの店出すか、またどっかのイタメシ屋で働くかするだろうに、社長が選んだのは鉄板焼き。しかもキッチンカー。
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