身辺調査

　あんなの屋台みたいなもんだよ。あのプライドの高い人が、よくもそこまで自分をさげたよね。結婚して間もなかった奥さんの入れ知恵じゃないかってオレは想像してる。
　でもよ、いいアイデアだよな。ラーメンやおでん、タコ焼きなんかはいくらでも屋台がある。たこ焼きと鉄板焼きなんて、鉄板がくぼんでるかまっ平らかの違いだけ。だのに、肉を焼いて出すと、ぐっと客単価があがる。
　奥さんと二人で何年かキッチンカーでの小さな商売をして、稼いだ金で店を借りたらしいよ。で、個人商店でなく、会社にした。ここいらあたりは、商才って言うのかね。認めたくはないけど、上場までしたんだから、認めざるを得ないよな。
　会社ができたてのころ、そう、オレが雇われたころから勢いがあってさ、すぐに支店を出したよ。ポンポンポンって感じで。でもね、一店舗一店舗、自前の社員を店長にして、丁寧に店を広げていった。
　店長自ら料理してな。鉄板で作れるものならなんでも出す。肉もエビもお好み焼きも焼きそばも。「レストランの味と屋台の味をご一緒に」だなんて、うたい文句でさ。これは今でも変わらないキャッチフレーズだな。
　俺もいつかは店長になれるって信じてた。でも、いつまで経っても声はかからねえ。あとから入ったやつが店まかされて、オレは置き去り。どうなってんだよって思ってるうちに本社スタッフになって、フランチャイズの契約係、いやトラブル処理係になっちまった。