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そのあとも、喜久川原鉄之助が浮気三昧なのをくり返し、やがてはテーブルに突っ伏してしまった。完全なる泥酔状態。
俺にいろいろゲロってくれたのはありがたい。でも、本物のゲロを吐かれたんじゃたまらない。女将にタクシーを呼んでもらい、すみやかにお帰り願った。
会計はかなりの金額だったが、アンチキクてつからの話は生きた情報の山だった。
依頼人であるマダムは、夫と社員の浮気を疑っていた。ところが、なんのことはない。水商売の女ですでにやらかしている。
俺が写真から受けた精力ムンムン、いくつになっても女のケツを追いかけていそうな印象どおりの結果だった。俺の人間観察も捨てたもんじゃないな。
浮気のしっぽをつかんだ以上に俺の唇を笑みの形に変えたのは、マダムの依頼の構図が見えたことだ。
酔っ払い男がさらりと口にしたその事実を聞いた時、思わず「そういうことか」と何度も無言でうなずいた。
キクてつフードの設立は、結婚後。もちろん、上場も結婚のあとだ。となると、マダムへの財産分与はとんでもない額になる。
マダムの依頼は新入社員の由香理と夫の不倫をあばくこと。手に入れた証拠をどう使うかは、俺の想像に任せるとマダムは言った。
わかったよ、証拠の利用方法が。離婚の際、夫を有責配偶者にしたいんだろ。そのほうが金を分捕る話を有利に進められるからな。
もう由香理との関係を調べる必要はないだろう。水商売の女相手に浮気をしている事実を証明すれば、マダムの目的は達成できる。
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