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動かぬ証拠はこれから用意するとして、まずは一報入れるとするか。さっそくの手柄に百万くらいはもらえるかもな。そうなりゃ大家のババアに八カ月分の家賃を一括で納めても、まだまだ手元に金が残るってもんだ。
ボタンを押す指も軽やかに、オレはマダムに電話をかけた。自宅に赴くと伝えたが、「探偵さんの事務所で」と素早く返され、通話は切れた。億ションでの暮らしぶりを見たかったが、また俺の暮らしぶりを見せる羽目になるとは。
仕方がないので、事務所兼住居の掃除をせっせとする。マダムが札束入りの封筒を置きやすくなるよう、ソファセットのテーブルから雑誌の山は消しておいた。
前回はビンタのあげくキレて帰ったマダムが、今回は早々に成果をあげた名探偵に、深く頭をさげるだろう。
なんせ、俺の働きのおかげで億単位の金が懐に転がりこむのだからな。俺への報酬が、三百万だの五百万だのとマンガじみた額なのもうなずける。
浮気の証拠は、写真がいいのか、飲み屋のねえちゃんの証言がいいのか、それともいたしている動画のような踏みこんだブツが欲しいのか。マダムのリクエストを確認し、さっさと実行に移して一件落着といきたいものだ。
朝の九時に来ると告げた言葉どおり、時計の短針と長針が九十度の角度を作った丁度のタイミングでドアフォンが鳴った。
意気揚々と報告した俺への返事は、冷え冷えだった。
「つまみ食いは黙認してるわ」
俺の報告に相好を崩し、お辞儀を連発すると予測したマダムは、無表情で顎をあげ、俺を見下している。マダムの目じりが垂れていなければ、極めつけに冷たい顔を作り出していただろう。
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