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「水商売の女と寝てるくらい、とうに知ってる。私の目を節穴だとでもお思い?」
おいおい、「お思い」などとリアルで使う女がいるとはな。こいつ、女王さまかよ。
「つまみ食いがオーケーなら、遠藤由香理も見逃せばいいんじゃないか」
「なに言ってるの、探偵さん。プロの女相手の浮気と素人相手の浮気じゃ、大違いなのよ。あなた、いい年してるんだから、それくらいわかるでしょ」
すぐに答えを返さなかったのがいけなかったのか、マダムの顔と声が荒れた。
「素人相手の不倫なら、道義的責任を盾に夫の非を大々的に責めることができる」
たしかにそうだが、どうにも腑に落ちない。社員との浮気は離婚騒ぎで、夜の女だと黙認する。考えが極端すぎないか。
いや、マダムはスーパーエキセントリックな女だ。彼女ならではの理由があるはずだ。
たしかさっき、夫の非を大々的に責めると言った。夫に積もる恨みがあるのだろう。もしそうだとしたら、マダムの言い分もわかる。
社長が水商売の女に手を出すのと新入社員に手を出すのとでは、公に知られた際の風当たりは格段に違う。下手をすれば、社会的生命を断たれてしまう。
それを狙っているのなら、ズル賢いな、この女。俺は婉曲に嫌味を述べた。
「なかなか知恵が回るな」
「おだまり」
俺はまた頬を張り飛ばされた。前回と同様、音ばかりが派手で痛みのまったくない妙技。
「またビンタかよ。おだやかにいこうぜ」
「うるさい。余計なことを言ってないで、さっさと由香理と夫の関係を調べろ」
マダムは舌でも噛んだのか、言い終えるなり唇の端を鋭く曲げた。
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