身辺調査

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 俺はマダムのセリフに、なにか引っかかるものを感じた。違和感はあまりにもおぼろで、俺の意識の外にさっさと出ていこうとする。  この時、違和感の解明にきちんと労を費やしていれば、俺はマダムの依頼の真相にもっと早く勘づいただろうに。だが俺は、手持ちの情報で成功報酬を得ることに意識をむけた。 「飲み屋の女との浮気も、証拠をそろえれば離婚の役に立つと思うが。ダンナを責める材料にもなる」 「それは黙認してると言ったのが聞こえなかった? それとも、耄碌したの」   言葉半ばでマダムは席を立った。眉が吊り上がっている。俺をにらみつける目はやわらかに垂れたままなのが、どうにもアンバランスだった。  初対面で感じていたが、マダムは怒りで見境をなくすタイプだ。これほどまでに顔つきと性格が異なる女は初めてだ。この裏表が、離婚を目論む女の特徴なのだと、俺は新たな知識をインプットした。    どう説き伏せても手持ちの駒では報酬にありつけないと結論し、俺はマダムの言に従った。由香理をせっせと尾行する。  由香理はコンパクトカーを運転し、キクてつチェーンの店を次々に訪問した。本部の社員として、フランチャイズ加盟店の管理を徹底しているのだろう。  本部にあがってきたデータで判断し、電話やメールで監督するのでなく、実際に足を運ぶ。それがキクてつフードの方針なのか、由香理の方針なのかはわからない。
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