身辺調査

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 どうです、私の話、あと五万の価値があったでしょ。はい、ありがたくいただきますヨ。へへ、すいませんネ。  私の言ったことで破談になっても、私のせいじゃないですからネ。変なスパイみたいな男が出入りしてるって遠藤さんに気づかれるとマズいから、もううちには来ないでくださいネ。これっきりってことで。さよなら。  喜久川原鉄之助の女グセはバカバカしいほど悪かった。聞き取りをした社員も、加盟店の店長も熟知している。手広く女がいる気配は濃厚で、離婚の際の有責は確実だろう。  マダムは夫に恨みがある。そう仮定して一度は無理やり自分で自分を納得させた。しかし、やはり腑に落ちない。どうして、マダムは夜の蝶との悪い遊びを黙認しているのか。いやそれよりも、なぜ遠藤由香理との浮気を勘ぐったのか。  あの店長は喜久川原と由香理の不倫はないと言ったが、鵜呑みは禁物だ。自分の目でたしかめない限り、二人の関係は清らかだとは報告できない。  マダムからもらった由香理の写真を見る。キリリと引き締まった眉に吊り上がった目は、懐かない猫を思わせる。ベリーショートの黒髪がじつに清々しい。不倫や金銭の絡むセックスとは関わりのない顔立ちだ。  店長はもう来るなと言ったが、由香理を尾行すれば仕方なしに一号店には足がむく。店に入るのはさすがにマズい。正面出入り口の向こうに消えた由香理が出てくるのを、俺は散歩を装って見張った。  今日は社長も一緒だ。このあと、二人がホテルにしけこめば店長の勘は空振りで、俺の粘り勝ちとなる。是非とも俺に軍配があがって欲しい。
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