身辺調査

31/44

31人が本棚に入れています
本棚に追加
/44ページ
 水商売がらみだとにらんではみたものの、入れ替わりの激しい業界だ。現在営業しているクラブやキャバレーで聞きこみをしても、空振りなのは明白だ。  俺にはひとつだけ、マダムを探るルートがあった。しかし、ここにはできるだけ足を踏み入れたくなかった。  みみっちい理由だ。なぜなら手ぶらで訪ねるわけにはいかないからだ。女用意係のキクてつ社員や、やたら一号店を鼻にかけた店長に金を使いすぎた。こんなことなら、家賃一カ月分だけでもプールしておくのだった。  マダムからの前金五十万は、積極的な探偵活動および日々の暮らしに溶け、残額は三万円也。どうせこのままじゃ生活自体が金欠で不能となる。電気をとめられるみじめさは、あまり味わいたくない。いつものように、消費者金融のお世話になるとするか。  当面の生活費と俺のねぐらの使用料一カ月分を借金し、ボロビルの最上階へと足を運んだ。俺の事務所のひとつ上には、マダムの手がかりを持つ女、大家のババアが住んでいる。  家賃一カ月分が功を奏したのか、追い返されずに済み、マダムの話を切り出すことに成功した。玄関での立ち話だが、ババアと茶を飲んでも美味くない。俺がなぜ、マダムの聞き取りをしているのか。あやしみもせずにさっさと口を動かしてくれた。  おまえさん、やっとアタシのところに来たね。どう考えても訳アリの依頼だ。あの子のことはいずれ探ると思ってたんだ。そうでなきゃ、おまえさん、ヘボ探偵に決定だったよ。  あの子はね、昔の店子なんだよ。いやいや、家じゃなくて店。このビルでもないよ。アタシがいろいろ物件を持ってるの知ってるだろ。
/44ページ

最初のコメントを投稿しよう!

31人が本棚に入れています
本棚に追加