身辺調査

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 本人が挨拶に来なかったからって不義理だとは思わなかったよ。水商売なんて、ある日突然消えちまうやつが多いからね。人を立てて礼を言いに来るだなんて、むしろ義理堅いよ。あの子だってそう思ってるんだろうね。そうでなきゃ、アタシに今回の相談はできなかったよ。  久し振りに会ったらわかんなかったね。電話の声は変わりがなかったぶん、見た目の違いに驚いたもんさ。  そりゃまあ、アタシのところに家賃を持ってきてたころは、毎日の売り上げが気になるスナックの経営者。比喩でもなんでもなく、目が吊り上がってた。  で、今は社長の奥方。なに不自由ない生活。それもよかったんだろうね。やさしげな顔になっててさ。  いや、そうじゃないって。金持ちになって暮らしに余裕ができたから、顔つきが変わったってんじゃないよ。本当に顔が違うんだよ。  ああそうだ。いいものがある。あの子とちょっと話したら懐かしくなってさ。押し入れの奥から探し出したんだ。写真なんだけどね、若いよ。あの子と初めて会った時だから二十二かな。  そんな小娘が自分でスナックをやろうってんだ。資金はどうなってるのか、気になるじゃないか。金のめぐりが悪いやつに店を貸したんじゃ、夜逃げの元だからね。  そこらへんはこっちだって商売だ。ズバッと訊いたよ。どうやって開業資金を用意したんだいって。そうしたらおもしろい子でね。まさか、あんな回答が返ってくるなんて想像もしなかった。なんだと思う、探偵さん。人の商売を当てるのも仕事のうちだろ。  ああ、やっぱりそう思うよね。キャバレーで売れっ子だったとか、フーゾクの女だとか。
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