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まあ、ざっくりとした範囲では当たってるかな。でも、探偵の見立てとしては合格点はやれないね。若い女が稼ぐとなりゃ、そのあたりと相場は決まってるからね。あの子の返事は傑作だった。後にも先にも、あれを超える仕事は聞かないね。ちょっと待ってな。
ひと言残してババアは奥に引っこんだ。これから持ってくる写真は、マダムの過去を物語っているはずだ。マダムが世に伏せておきたいなにかが写っていると、俺の直感が告げる。
玄関で待つのがじれったくなり、靴を脱ぎ上がりこもうかと頭によぎった時、ババアは指先に紙切れをつまんで戻ってきた。
「ほら、これ。あの子の若いころ」
角の丸くなった古い写真は、強烈なインパクトだった。ひと目見るなり、俺はのけぞった。
大仰な言葉遣いに高速ビンタ。ヒントは転がっていたのに、仕事が特殊すぎて候補にすらあげなかった。知れば強請るやつがいてもおかしくない。これは隠したい過去だ。大いに納得し、俺は写真をつぶさに見る。
艶のある黒のボンデージスーツに網タイツ。膝を覆うロングブーツのかかとは、踏みつけたすべてのものに穴をあけそうなほど細く高い。ご丁寧にムチまで振り上げている。まぎれもない女王さまだ。
露出の高い衣装に吸いついた目を顔に移動させた瞬間、俺の息はとまった。
まさか……。化粧はキツイ。とくに目の周りは、念入りに手を加えられていた。
しかし、化粧の下の顔を見抜くのは、俺の特技だ。若きマダムの素顔が頭の中で像を結ぶ。閃きが稲妻のように背骨に沿って走る。違う。マダムは女王さまだった過去を隠したいんじゃない。念のため、確認をした。
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