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「この女、本当にマダムなのか」
「ああ、そうだよ。見てのとおりさ。SMクラブの女王さま。ブロマイドを作って売るほど人気だったらしいよ。自分でも気に入ってたのかね。それとも、そういう趣味を持ってる男をみつけたら勧誘するためか。バッグに潜ませててね。ちょっと恥ずかしそうにしながら取り出したのを見て、アタシが大笑いしたらあの子も喜んでさ、一枚くれたんだよ」
ババアは写真を返せと掌を差し出した。
「すまん。これ、ちょっと貸してくれないか」
「ダメだよ。なくされると困るからね。これはあの子が、体を張って生きた大切な記念なんだ。アタシはね、あの子には上手くいって欲しいんだよ。親はいない。子供もいない。アタシは結婚しなかったけど、あの子はした。できることならダンナと上手くいって欲しい。もしダメなら、せめて金を分捕って悠々暮らして欲しい。女一人で生きてきたアタシと似てる気がしてね。なんだい。アタシが浪花節じみたこと言うの、おかしいかい」
「いや、おかしくない。あんたの願いには心が温まるよ。じゃあ、写真を写真に撮るのはいいだろ」
ババアの返事を待たずに俺はポケットからケータイを引き抜き、まだ小娘とも言えるマダムを機械の中にデータとして落としこんだ。
「おまえさんもいろいろハイテクを使えるんだね。さあ、用事が済んだら仕事しな。家賃はまだたんまり残ってるんだからね」
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