32人が本棚に入れています
本棚に追加
/44ページ
「社長のセクハラに怒って、車のキーを投げつけていたよ。そのあとは、さっさと一人でタクシーに乗って職場放棄さ」
マダムは垂れた目じりをさらにさげ、ふっと笑いやがった。
「あれは男女の関係以前に、社長と社員の関係が壊れている」
「うちの人は、小娘に軽くひねられたのね」
「そういうことだ。で、あんたの依頼をこなす中で、いくつかナゾが生じた。俺なりに解き明かしたつもりなんだが、答え合わせにつきあっていただきたい」
俺はケータイからプリントアウトした写真を差し出した。画質は落ちているが、ムチを持った女王さまのインパクトは強烈なままだ。
マダムは息を飲み、目を丸くしている。ようやく聞こえた声は、かすれていた。
「こんな古い写真を見つけ出すなんて……」
「これは私じゃないと言わないのか」
マダムは唇の端を鋭く曲げた。失敗を自覚すると、知らずにこの顔になるのだろう。
一拍おき、マダムは両手を顔の横にあげた。降参のポーズ。女王さまの正体については争う気がないようだ。
「よくわかったわね」
「化粧に隠された素顔を見抜くのは、俺の特技なんだ。あの痛くないビンタは、女王さま時代に修得したのか」
「そのとおりよ。どこまで痛みを与えるか。その見極めができないと女王さまはできない。音だけ大きな、プレイのビンタ。苦痛でのたうち回ったり、血が出るようなSMを提供する店なんてないわ」
「ディープな世界だな。じゃあ、次」
俺はマダムから預かった遠藤由香理の写真をテーブルに載せる。
「これは隠し撮りだな。あんたが撮ったのか」
最初のコメントを投稿しよう!