身辺調査

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「社長のセクハラに怒って、車のキーを投げつけていたよ。そのあとは、さっさと一人でタクシーに乗って職場放棄さ」  マダムは垂れた目じりをさらにさげ、ふっと笑いやがった。 「あれは男女の関係以前に、社長と社員の関係が壊れている」 「うちの人は、小娘に軽くひねられたのね」 「そういうことだ。で、あんたの依頼をこなす中で、いくつかナゾが生じた。俺なりに解き明かしたつもりなんだが、答え合わせにつきあっていただきたい」  俺はケータイからプリントアウトした写真を差し出した。画質は落ちているが、ムチを持った女王さまのインパクトは強烈なままだ。  マダムは息を飲み、目を丸くしている。ようやく聞こえた声は、かすれていた。 「こんな古い写真を見つけ出すなんて……」 「これは私じゃないと言わないのか」  マダムは唇の端を鋭く曲げた。失敗を自覚すると、知らずにこの顔になるのだろう。  一拍おき、マダムは両手を顔の横にあげた。降参のポーズ。女王さまの正体については争う気がないようだ。 「よくわかったわね」 「化粧に隠された素顔を見抜くのは、俺の特技なんだ。あの痛くないビンタは、女王さま時代に修得したのか」 「そのとおりよ。どこまで痛みを与えるか。その見極めができないと女王さまはできない。音だけ大きな、プレイのビンタ。苦痛でのたうち回ったり、血が出るようなSMを提供する店なんてないわ」 「ディープな世界だな。じゃあ、次」  俺はマダムから預かった遠藤由香理の写真をテーブルに載せる。 「これは隠し撮りだな。あんたが撮ったのか」
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