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「当たりだ。おい、ちょっとは遠慮しろよ。客の秘密をネタに金をせびっていれば、今ごろは悠々自適の老後をすごしているさ。それにな、作り話じゃ脅しようがないだろ」
「やさしいのね」
「重ねた年齢は伊逹じゃねえんだよ」
「なによ、おじいちゃんがカッコつけちゃって。惚れるじゃない」
「愛は限りある資源だ。ダンナのためにとっとけよ。それよりも、最後に耳寄りな情報をお伝えしよう」
マダムは「なに?」と無言で首を傾げ、話を続けるよう促した。
「なぜだかやたらと遠藤由香理のことを知りたがるあんたのために、俺は身辺調査を続けた。由香理はキクてつフードを辞めたよ」
え……。声は小さかったが、驚きは大きかったようだ。マダムの目が丸く開き、まばたきを忘れている。
「俺も驚いたよ。だがこの先はもっとすごいぞ。驚愕の事実ってやつだ。今は日本最大手のコンビニの本部で働いている。フランチャイズのノウハウをさらに吸収するつもりなんだろう」
マダムは静止したまま、真っ直ぐな視線を俺に注いでいる。ひと言も聞き漏らすまいと、意識を詰めているのがわかった。
「俺の勘だが、ありゃそのうち起業するな。フランチャイズに加盟するだなんてケチな起業じゃなくて、加盟店を募る側として、だ」
キクてつのフランチャイズ一号店を鼻にかけたおやじと同じことを、俺も口にしていた。接した者にそう確信させるほど、由香理の働き方からは、野心があふれ出しているのだ。
「あの娘は、あんたみたいに、男に頼って生きるタマじゃない。完全に自立した女だ」
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