身辺調査

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 人生のレールを外れてからは、すっかり投げやりな気質になった。その結果が八カ月なのだから、時の流れは無情だ。俺の生き方の基本方針はどこか間違っているのだろう。 「減らず口はもうやめな。おまえさん、三分後にはアタシに感謝するよ」 「溜めた家賃を帳消しにしてくれるのか? それなら今すぐお礼を言おうじゃないか」 「冗談じゃない。家賃は払ってもらうよ」 「ない袖は振れねえ」 「えらそうに言うようなことかい。おまえさんが家賃を払えるよう、仕事を紹介してやるんだよ。どっかの店のレジ打ちや倉庫での作業じゃないよ。道路工事の交通整理でもない」 「なんでそんなに俺のバイトに詳しいんだよ。惚れてるのか、俺に」 「部屋で孤独死されたらたまんないからね。おまえさんの動きは、そうだね、おまえさんの本業の探偵ばりに観察させてもらってるよ。いいかい、よくお聞き。依頼はアタシの古い知りあいから。話が重大すぎて、どこに相談したらいいか途方に暮れてるんだってさ。よくわからない人間の書きこんだネットの口コミなんて信用できない。そんなものをあてにして、内密な話はとても無理。それでアタシにお鉢が回ってきたんだ。アタシは顔が広いからね。おまえさん、アタシのビルで開業してから、なんだかんだで三十年。多少なりとも信用はあるんだろ」 「おおう、ありがとう。安心してくれ。俺は信用が服を着て歩いているようなものだ」 「キレの悪い与太飛ばしてんじゃないよ。あとのことは依頼人に聞きな。この事務所に来るよう連絡しておいてやるよ」
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