中村くんは高嶺の花

1/4

575人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ

中村くんは高嶺の花

「また中村くんトップだって」 「すご。二位より倍以上の実績じゃん」  壁に貼られている営業成績のグラフを眺め、社員達が盛り上がる。  話題の中心は、いつだって中村くん。  中村和斗(かずと)。私が勤めているプラスチック製品製造会社『汐見化工』営業部のエースだ。  彼はいつだって成績優秀で、社内での評判がいい。  優秀なだけでなく、それを鼻にかけない人格者で、安定したメンタルと朗らかな笑顔が周りを癒している。  色素の薄い綺麗な髪と整った顔立ち。  眉目秀麗で、涼しげな眼差しが皆を虜にする、まさにハイスペ中のハイスペ男子だ。 「ね、今日の飲み会中村くんも行くかな?」 「行くでしょ! じゃなきゃ飲み会の意味ないもん!」  中村くんも行くのか。じゃあ私は…… 「亜依(あい)も行くよね?」 「え? 私は」  同僚の山ちゃんに満面の笑みで尋ねられ口ごもる。  行きたいような、行きたくないような。 「お疲れさま」  外回りから帰ってきた中村くんに、周囲から歓声が沸いた。 「中村くん、飲み会行ける?」  山ちゃんの質問に中村くんは柔らかく微笑む。 「ああ。今日はもう仕事片付いたから、行けるよ」  そこかしこから「よっしゃ」という声が響いた。  そしてふいに彼と視線が重なりぎくりとする。 「香住(かすみ)も行けるの?」  名指しで呼ばれ目が泳ぐ。 「たまには香住も来なよ。気分転換」  うっとりするほど優しい笑み。  きっと皆の目は、私のような地味な社員にも声をかけてくれる中村くんが神々しく映っているだろう。  ……だけど私は知っている。  本当の彼が、どんな人間であるかを。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

575人が本棚に入れています
本棚に追加