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「亜依、このパスタ美味いよ! 食ってみ」
「う、うん……」
ランチ中も、中村くんはすこぶる上機嫌で、とにかく甘い。
「はい、あーんして」
「それはちょっと……」
「なんで?」
……おかしい。いつもだったら悪態ついて、午前中にたまった鬱憤をここぞとばかりに吐き出しているところなのに。
「ほら、あーん!」
「あ、あーん」
押しに負けて口を開けると、中村くんは自分のフォークを私の口元に運ぶ。
「美味しい?」
満面の笑みで首を傾げるのが愛らしくて、ボッと顔から火が出るように熱を帯びた。
「可愛い、亜依」
まるであの夜の延長みたい。
心臓が高鳴って、平常心ではいられない。
……付き合ってるわけじゃないよね? だって私達、まだ想いを伝え合ってないし。
だったら今、勇気を出して言っちゃう?
「中村くん、私……」
「何?」
「ホギャー!」
麗しく上目遣いをする彼に心臓を奪われて、パニック状態に陥った。
……だめだ、だめだ。身体がもたない。今まではただのガス抜き要員だったから、意識せずに一緒にいられたけど。
「大丈夫か? 亜依」
「大丈夫……」
やっぱり中村くんは高嶺の花だ。
私なんかが手を出していい相手じゃない。
それに……
『アソコすら高嶺の花!』
私初めてで、中村くんを満足させることができなかった。
交際って、身体の相性が大事だってよく聞くし。
『ごめん。やっぱ亜依じゃ物足りねーんだわ』
「うわああああ……」
「亜依!?」
ネガティブな妄想ばかり繰り広げ、涙目で天を仰ぐ。
「……なあ、亜依。今週の土曜暇?」
「土曜日?」
なんにも予定はないけど……
「デートしようよ」
「デート!?」
デートなんて! そんな、畏れ多い!
「……できれば泊まりで」
急に手を握られて、また心臓がギュッと鳴く。
泊まりってことは、間違いなくあの夜の続きを。
ごくりと固唾を呑み込んだ。
「……いいよ」
決めた。
今度こそ中村くんと一線を越える。
そしてもしも彼を満足させることができたら、きちんと告白しよう。
「よっしゃー! 楽しみ!」
屈託なく微笑む彼を見つめながら、密かにそう決意していたのだった。
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