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中村くんが提案してくれたデートの場所は、都内の大型テーマパーク。
まさにデートの中のデートというチョイスだ。
実は昔一度彼と一緒に行ったことがある。
その時は大学の友達グループで行ったから、デートというわけではなかったけど。
友達の一人として、遠くから彼のことを見つめていた。
当日。
緊張の面持ちで駅からテーマパークへと歩き出す。
本当は自宅最寄駅から一緒に行こうと誘われていたけれど、最早心臓がもたないレベルなので丁重に断った。
行きの電車の中で心の準備をしたかったから。
大袈裟かもしれないけれど、中村くんとデートなんて夢みたいだ。
今まではガス抜き要員として傍にいたから、いざデートなんて言われてもどう接していいかわからない。
服装、変じゃないかな。
カジュアルなロングワンピースにスニーカー。
テーマパークだから動きやすい格好にしたけれど、少々色気が足りなかったかも。
『できれば泊まりで』
そんなふうに言われたから、下着だけは気合いをいれて新調してきた。
……今日は勝負の日。
中村くんと付き合えるかどうかは、今夜にかかっている。
待ち合わせのゲート前は人で溢れていたけど、すぐに中村くんの姿を見つけた。
彼が人一倍目立っていて、輝いている気がしたから。
なんてことのないティーシャツをさらっと着ているだけなのに、とても洗練されているように見えて。
スラッとした立ち姿も、ボーッとしてる横顔も、何もかも美しかった。
「あの人めっちゃイケメンだね!」
「声かけてみる?」
なんて声が聞こえてくるから、彼に近づくのを躊躇した。
やっぱり中村くんは高嶺の花だ。
あの頃と変わってない。
当時ここに来た時も、あまりの格好良さに声をかけられなかったっけ。
────「亜依!」
突然彼が声を上げ、私に手を振った。
……気づいてくれたんだ。
結構距離あるのに。
すぐにこちらに駆け寄る中村くんに固唾を呑み込む。
周囲の視線が痛い。
「何、亜依すっげー可愛いじゃん」
そう微笑んでくれる彼に、ドクッと心臓が高鳴った。
「スニーカー可愛い。新鮮」
どうしよう。早くも感極まって泣きそうだ。
「じゃあ行こうか」
どこまでも自然に差し出してくれる手に戸惑いながらも、勇気を出して握り返した。
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