告白したい!

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 結局その日は一度も悪態をつかずに、中村くんはずっと笑っていた。 「あっという間だったなー」 「……ホントに」  もうすっかり夕暮れで、夜のパレードが始まった。  煌びやかな光の演出に歓声を上げながら、うっとりと世界観に没頭する。 「すっげー……」  同じように見惚れている彼の綺麗な横顔を見て、胸が締めつけられた。  ……今日一日、すごく楽しかった。  どんな時も、さり気なく私を気遣ってくれて、たくさん褒めてくれて。  あんなにドキドキしながら繋いでいた手も、今では離すのが惜しいほど。  ……今日、私きちんと気持ちを伝えるんだよね?  ごくりと固唾を呑み込んで、再びパレードに視線を移した。 「見えないー」  後ろからそんな子供の声が聞こえて、咄嗟に彼の手を離して後退る。  私がどいたことで小さな女の子は歓声を上げ前へ進み、後ろにいたお母さんらしき人が慌てて止める。 「大丈夫ですよ。どうぞ」  そうニッコリ笑うと、安堵したように女性は頭を下げた。 「……変わんないね。そういうとこ」  いつの間にか中村くんも私の隣に移動して、すぐにまた手を握る。  あまりにも当たり前のように繋ぐから、なんだか泣きそうになってしまった。 「覚えてる? 亜依、昔もそうやって場所譲ったよね」 「そうだっけ?」 「そうだよ」  私すら忘れていたことも、中村くんは覚えてくれている。  そのことがたまらなく嬉しかった。 「亜依っていつもそうだった。皆の代わりに並んだり、譲ったりさ。そういうとこ、ほっとけないっていうか」  少し恥ずかしそうにして言う中村くんに驚いて、何も返せなかった。  ……知らなかった。そんな些細なことまで見ていてくれて、気にかけてくれていたなんて。 「だからさ、今日は亜依が一番楽しめる日にしたかった。あの頃のリベンジ」  パレードの鮮やかな光が、真っ赤になった中村くんを照らして、じわりと涙腺が緩んだ。  どんなことも楽しそうに張りきってくれたのは、私の為だったんだ。 「ありがとう!……最高に楽しかった!」  左手で涙を拭って、右手は力いっぱい彼の手を握る。  このままこの温かさに溶け込んで、気持ちが伝わればいいのになんて、虫がいいことを祈った。 「……まだ今日はこれからだけど」 「え?」  彼を見た途端にチュッと一瞬だけキスされて、心臓が止まるかと思った。 ────「ホテルとってあるから、そろそろ行こうか」  そんな誘いに再び心臓が高鳴り、そっと彼を見上げて頷いた。
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