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すれ違い
……最悪だ。
あの夜はそのまま深い眠りに落ちて、目覚めた時にはチェックアウトギリギリの時間。
日中はしゃぎすぎて、かなり疲れていたみたいだ。
その後は朝ご飯を食べた後、二人で映画を観て、お茶をして解散した。
中村くんは全く気を悪くしている様子もなく、笑顔で接してくれていたけど、内心はきっとイラッとしたのではないか。
せっかくあんなに素敵なホテルを予約してくれて、甘い夜を過ごしたのに。
自分の愚かさに呆れる。
今度こそ愛想を尽かされてないだろうか。
もう私を相手にしてくれないかも。
とてつもないチャンスを逃した気分で、はあ、と盛大なため息をついて出勤した月曜。
オフィスには既に中村くんの姿があって、ごくりと固唾を呑み込んだ。
なんて声をかける?
週末はごめんね、なんて白々しいし、他の人に聞こえたら大変だ。
ここは、いつも通り挨拶だけでも。
「なか……」
「中村くん! おはよう!」
杉崎美香さんの溌剌とした声が響き、声をかけるタイミングを失った。
「おはようございます。杉崎さん」
爽やかな笑みを浮かべる中村くんに、杉崎さん達社員は、男女関係なく皆うっとりとしている。
もちろん、私も。
「くはっ! 朝から心臓に悪い」
杉崎さんは胸に手を当てて荒く呼吸していて、その気持ちがよくわかった。
「あのさ、後で部長から話があると思うけど、三橋重工の案件、私達ペアになったから」
キリッとした笑みを浮かべて杉崎さんは言った。
その言葉に皆声を上げて驚く。
「三橋重工!? 超重大案件じゃない!」
「数千万が動くぞ」
確かに、かなり大手の取引先だ。
社運がかかっていると言ってもおかしくないような、重要な案件になることは容易に想像できる。
そんな大きな仕事に抜擢されるなんて、やはり中村くんも杉崎さんも凄い。
「これからしばらく忙しくなると思うから、覚悟してね!」
「……わかりました」
どこか浮かない顔の中村くん。
プレッシャーを感じてる?
中村くんなら大丈夫、と言いたいけれど、オフィスでは距離を感じてしまい話しかけられない。
今度は私からデートに誘おうと思ったけれど、邪魔しない方がよさそう。
皆から激励や賞賛を受けている中村くんに背を向けて、自分のデスクに戻った。
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