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────「っあー! くそダルかった」
飲み会が終わった帰り、案の定中村くんに捕まった私は、二人でいつものファミレスに寄った。
スマートにお酒を飲んでいた彼は実はアルコールが苦手で、今は美味しそうにメロンソーダを飲んでいる。
「横田部長マジ最悪だわ。だる絡みしやがって」
「………………」
そして本当の中村くんは口が悪い。
「あー、しんど。帰るのめんどくせえ。全部めんどい。何もかも投げ出してえ」
そして凄まじく覇気がない。
酔うとネガティブになりやすく、二人の時は常に目が死んでいる。
「なあ、亜依。俺今日も頑張ったよな? 慰めてくれよ」
「そう言われても……」
「何でもいい。甘い声をかけてくれ。頭を撫でてくれ。そしたら駅まで歩ける」
「………………」
だる絡みしているのは彼の方じゃないか。
辟易してため息が出そうになるのを堪えた。
正直言ってかなり面倒臭い。
こんな彼を知ったら、皆はどう思うか。
「頼むよ。もう俺心折れた。ねえ、亜依ちゃん」
突然手を握られ、変な声が出る。
こうして予測無しにスキンシップをするから侮れない。
「じゃないと俺、帰らないから」
上目遣いで見つめられ、心臓を掴まれる。
甘えモードが発動した。手をスリスリ触られ、胸が高鳴るのを必死に隠していた。
これもいつもの流れだ。
このあと彼は寝る。
そうなる前に何としても帰らないと。
「中村くんはいつも頑張ってるよ。偉いね」
なんとか言葉を振り絞ると、彼はニンマリと幸福そうに笑った。
「じゃあ、そろそろ帰……」
「待って。和斗って言ってない。和斗、いい子だねって言って」
「………………」
……くそダルい。
血管がぶち切れそうになるのを感じながら、深呼吸を繰り返す。
「……和斗、いい子だね」
「うふーん!」
こんな関係になったのは、もうかれこれ高校生の頃からだ。
聖人君子でハイスペな彼は、私の前だけではめちゃくちゃ面倒臭い人になる。
そしてそんな彼を、惚れた弱みで受け入れてしまうのは、中村くんには内緒だ。
「よし、頑張って帰るか! 送ってく!」
ONモードの彼に戻り、伝票をとり立ち上がる。
ホッと胸を撫で下ろした私は、いつものオーラで店員さんを虜にさせながら会計を済ます彼の後ろ姿を見つめていた。
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