中村くんは高嶺の花

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────「香住さんも打ち上げ行くっしょ?」  昔から中村くんはそうだった。  人望があって、人当たりがよくて。  高校時代から、いつもクラスの中心にいた。  分け隔てなく皆に優しくて、地味で目立たない私のことも気にかけてくれて。 「文化祭楽しかったな! 俺らのクラス最高!」  中村くんがいる教室はいつもパアッと明るくて、皆の結束力も強い。  彼と同じクラスになれたらラッキーだと、他のクラスの人達が羨ましがるほどだ。  ファンクラブの会員数は増える一方。  頭も良くスポーツ万能で、カッコ良くて性格もいい中村くんのことを、好きになる女の子は数えきれないほど。  私もその中の一人だった。  振り向いてもらえるはずはないとわかっていたけど、密かに淡い恋心を抱いていた。  だから本当の彼を知った時、心底びっくりしたんだ。 「っあー! 最悪! ふざけんな! なんでもかんでも俺に押しつけやがって。くそが」  誰もいない資料室で、一人お弁当を食べていた時。  先生から何かを頼まれたのか、中村くんは机の上にドサッとプリントの束を置いた。  言葉遣いも表情も、普段の彼からはかけ離れている。  私はびっくりして、卵焼きを喉に詰まらせて咳き込んだ。  その音に中村くんはハッとする。  私が目立たなさすぎて、存在に気づいていなかったらしい。 「あれ……いたんだ」  真っ青になって私を見つめる中村くん。  物凄く気まずい。 「あのさ、このことは」  彼が言いたいことはわかっていた。 「もちろん誰にも言わないよ!」 「香住……」 「中村くん、いつも皆から頼られて大変だもん。ストレスたまるよね。たまには吐き出さないと」  びっくりはしたけど、幻滅なんてしてない。  むしろ素直に気持ちを吐き出す中村くんは、人間らしくて親近感が湧いて、もっと魅力的だと感じた。 「中村くん、いつも完璧で尊敬してる。でも、頑張りすぎないで」 「…………う……」  みるみるうちに中村くんの目から涙が溢れ、ギョッとする。  男の子が泣いているところを見るのは、幼い頃以来のことだった。  少し恥ずかしそうに、だけど思いを溢れさせるように腕で涙を拭い静かに泣く中村くんの姿に、胸がドキッと高鳴る。  惚れ直すという現象を肌で感じた瞬間だった。  それから私達は、二人で並んで資料室の奥に座り話した。  私のお弁当を少しお裾分けすると、彼は嬉しそうにそれを頬張る。  その姿は甘えん坊で無邪気で、とても完璧な中村くんとは思えない。  聞けば中村くんは、幼い頃から厳格な両親に厳しく育てられ、いつの間にか人から求められる人格を演じるようになったらしい。  その苦悩は私には想像できないほど苦しいものだと思う。 「だから一人になった時は、ガス抜きしてたんだ」  そう苦笑する中村くんが切なくて、私はもっと彼に恋してしまうのだった。  
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