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それからというもの、彼は何かにつけては私と二人きりになり、素をさらけ出してガス抜きするようになった。
そしてそれは、高校を卒業してからも変わらない。
彼の能力ならば最難関の大学にも入れたはずなのに、何故か私と同じ大学へ入学し、同じボランティアサークルに所属した。
そうして大学時代もほぼ毎日、一緒に過ごしたのだ。
彼女ができた様子は一切なかった。
とにかくいつも気を張っているから、恋愛なんてする余裕はなかったのかもしれない。
彼は大学卒業後も(ちなみに首席だった)、今度はあらゆる大手企業からのスカウトを蹴り、私も志望した汐見化工に入社した。
世界を支える素材メーカーに興味があったらしい。
社会人になってから三年間、引き続き毎日のように顔を合わせている。
「あのさ、中村くん。今日は真っ直ぐ帰っていいからね」
中村くんは飲み会の時、必ず私の自宅アパートの前まで送ってくれる。
何度遠慮しても、絶対に。
「だめだって。夜道一人じゃ危ないだろ」
「だって帰るの面倒臭いんでしょ? 余計遅くなるじゃない」
「だ、大丈夫。それはそれ、これはこれ」
悪態をついていても、根本の人格は変わらない。
中村くんは気遣いができて優しい人だ。
……だから八年間、十七歳の頃からずっと片思いしてるんだけど。
「あれ……?」
駅に着くと、いつもより倍以上の人でごった返している。
物々しい雰囲気に、嫌な予感がした。
『運転見合わせ』
そんなアナウンスが聞こえ、目を見開く。
「嘘でしょ……」
もうすぐ終電の時間なのに。
「……タクシーで帰るか」
中村くんに促されロータリーへ。
しかし皆考えることは一緒で、タクシー乗り場は長蛇の列ができていた。
見ているだけでどっと疲れが出る。
これじゃ、何時に帰れるかわからない。
「ごめん、中村くん。私もう疲れて限界。ネットカフェに泊まるわ」
そう苦笑すると、中村くんは青ざめる。
「は!? だめだって! 女の子一人じゃ危ない!」
そんなに必死にならなくても。
「じゃあカラオケ」
「だめ! 身体休まらない!」
凄い剣幕に圧倒され、何も返す言葉がない。
「……じゃあ、ホテル泊まる」
金欠なのになぁ。だけどタクシーで家まで帰るのとどっこいどっこいだ。
「……俺も一緒に泊まるよ」
「え!?」
爆弾発言に絶句すると、彼は真っ赤になってあたふたする。
「違う! 別々の部屋で!」
「そ、そうですか」
焦った。同じ部屋で泊まるのかと思った。
「ちょっと待ってろ。今空いてるか調べるから」
スマホを取り出した中村くん。
こういう時、スピーディーで本当に頼りになる。
正直言って一人でホテルに泊まる事なんて滅多にないから、とても心強かった。
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