一線を越える夜

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 しばらくして、中村くんが戻ってきた。  バスローブ姿と濡れ髪が色っぽくて直視できない。  胸の高鳴りは最高潮で、息をするのも苦しかった。 「どうした?」 「なんでもない」  ずっと一緒にいるから目が慣れていたけど、改めて見ると中村くんって大人の男性なんだ。 「……ドキドキしてる?」  そんなふうに指摘されて、図星が恥ずかしくてすぐにバスルームに逃げ込んだ。  どうする? どうする? 「……どうする?」  熱いお湯を浴びながら小声で呟く。  勢いでこんなところに来てしまったけど、どう考えても異常事態だ。  このまま安らかに眠れるわけない。  あんな……あんなセクシーな中村くんを目の前にして!  無意識に念入りに身体を洗ってしまった。  スッピンを見せるのは恥ずかしいけど、高校時代嫌というほど見られていたし。  最後の問題はバスローブだ。  こんなに際どいものを身につけるのか。  だけどさっき着ていたスーツにしたら、逆に意識してるみたいで気まずい。  ここは、なんにも気にしてませんオーラを醸し出して、何食わぬ顔でこの状態に適応している振りをするしかない。  バスルームから出た瞬間、彼と目が合う。  私のことをじっと見つめている中村くんは、心なしか顔が赤い気がする。  冷蔵庫の前でしゃがみ込んだ彼は、突然両手で顔を覆った。 「無理だ……無理」  無理? 私のこの格好が? 対象外すぎるってこと?  私なんて眼中にないことは知っていたけど、改めて言われると凹む。 「俺、床で寝るから。安心してベッド使えよ」 「え!? だめだよそんなの! 中村くんもここで寝て!」 「だから無理なんだって」  近くで眠りたくないほど無理なの!?  なんだか悲しい。遠回しに拒否されてるみたいで。 「……やっぱり帰る?」  そう提案すると、彼は焦ったように首を横に振った。 「いや! 帰らない! 帰らないけど……」  また真っ赤になる中村くん。  そうやって赤面されると、こちらまで体温が上がってしまう。  ……もしかして、彼も意識してる? 「だ、大丈夫だよ。私隣で寝ても気にしない。私達そういう関係じゃないし、中村くんだって私のこと眼中にないでしょ?」  だからこそ素を見せてくれるんだって、私は知っている。 「なんだよそれ……」  苦笑する私に、彼は不快感を露わにした。 「眼中にないってなんだよ。誰がそんなこと言った?」 「中村くん……?」 「さっきから、……我慢してんだけど。手を出さないように」 「え!?」  彼の目がギラついたのを見逃さなかった。  途端に心臓が飛び跳ねて、鼓動の音がうるさい。
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