一線を越える夜

4/4

580人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ
「可愛い……」  愛撫の途中で、彼は何度もそう囁いた。  うっとりするような眼差しで。  触れる指や舌は熱く優しくて、吐息が漏れるほどの幸福を感じる。  こんなふうに愛でるように触れられると、勘違いしない方が無理だ。 「可愛い。亜依、……可愛い」  いつも毒舌な中村くんが、珍しく甘い。  愛想の良い彼でもなく、ガス抜きして悪態をつく彼でもない。  ただ余裕なく私を求める姿に胸が高鳴って、ますます虜になってしまう。  耳たぶ、首筋、胸の先端、太腿の内側。彼の舌が這う度に反応して、声を抑えられない。  ついに身体の奥を長い指でかき混ぜられると、今まで感じたことのないような刺激に仰け反った。 「うわ……すごい。吸いついてくる」  わざとなのか、一際甘い声で恥ずかしいことを囁く彼に、余計身体が疼いてたまらない。 「気持ちいい?」  じっくり反応を観察するように見下ろされ、恥ずかしさにシーツを握り締める。  やがて指の動きが速まるにつれ、せり上がる快感。  狂ったように嬌声を上げ、びくりと痙攣し果てた。  こんなに、身体の力が抜けるくらい気持ちいいの初めて。  息を整えながらぼんやり彼を見上げる。  中村くんは満足げに微笑むと、優しく髪を撫でてキスをくれた。 「亜依、可愛かった」  指を絡ませてキスをして、……まるで恋人同士みたい。 「このまま寝ていいよ」  私の隣に横たわり、腕枕をしてくれる彼にキョトンとする。 「でも……まだ」  中村くんは満たされてない。 「大丈夫。初めてなんだから無理しないで」  私の頬に手を当てて微笑む彼は穏やかで、とても紳士的に感じた。  私のことを第一に考えてくれるのが嬉しかった。  ……だからこそ、もっと深く繋がりたい。 「……最後までしたい」  ポツリと呟くと、彼は真っ赤になった。 「……でも、俺の……デカイから」  そんな言葉に私も絶句して、体温がまた一気に上昇する。  初めてだからスタンダードがわからない。 「負担かけちゃうかも」  どこまでも私を気遣ってくれる彼が愛しくて、胸に顔を埋めた。 「……大丈夫。お願い」  ここまできたら、中村くんに初めてをもらってほしい。  なんてったって初恋の相手だし。片想い歴も長いし。 「そんな煽んなよ」  そう言ってまた私の上に覆い被さる。  覚悟を決めて目を瞑り、彼を受け入れる心の準備をした。  ……けど。 「……痛い!!」  そんなに甘くはなかったらしい。  裂けるような痛みに悲鳴を上げて、行為は中断された。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

580人が本棚に入れています
本棚に追加