古屋敷

6/8

12人が本棚に入れています
本棚に追加
/34ページ
そうして直ぐに男性は庭に入って来た。 心なしかフラフラした足取りで「済みません…頂きます」と言いながら真っ直ぐ井戸に向かう。 でも、その途中で具合が悪化したのか、井戸の手前で草の中に沈むようにしゃがみ込んでしまった。 「大丈夫ですか?しっかりして下さい」 見兼ねた真琴が縁側を飛び降りると男性と井戸の方へ向かう。 どうやら本当に具合が悪くて来たみたい。 でも私は縁側で膝を抱える両手に力を込めて、真琴の様に動く事が出来なかった。 どうしてなのか、自分でも分からなかったけど。 真琴は井戸から水を汲んであげると、柄杓桶を傾けて男性の頭から水を掛けた。 「うわっ?!冷たい!」 「そうでしょう?井戸水だから。ちょっと待ってて…香澄!」 真琴に呼ばれて私は弾かれる様にハッとして、顔を上げた。 「この人に水飲ませたいから、滑車が動かない様に抑えていてくれない?」 「え、ええ」 私は縁側から降りると直ぐに2人の元へ行った。 近くで見る男性の顔は俯き加減でよく見えなかったけど、服は井戸水で濡れている。 私は真琴が一旦、滑車を降ろした井戸の淵に手を掛けた。 滑車が回って、新しく水を蓄えた柄杓桶が登ってくる。 「はい、どうぞ。こぼれ落ちない内に飲んで」
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加