古屋敷

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真琴が両手で井戸水を掬い、男性に差し出した。 気怠そうに直に口を付けて水をひと口飲んだ男性は、「美味しい…」と呟くと、あっと言う間に真琴の手の中の水を飲み切ってしまった。 「まだ足りないでしょうから…」 そう言って私が抑えている桶から更に水を掬う真琴。 私は桶の水が足りなくなってきたら、2人にひと言断り、水を汲み直す。 そう繰り返している内に、男性は立ち上がれるようになったのか、自分で水を飲み始めた。 そして、しばらくして…。 「ありがとうございます。お陰で大分、楽になりました」 男性は真琴に向かってお礼を言った。 私は、そんな男性を見て、何だかモヤモヤしてきた。 疎外感って訳でも無いんだろうけど、何となく女のカンで彼が真琴に好意を持ったことに気付いたのだ。 真琴は私の大事な親友なのに…。 真琴も私に背を向ける位置に居たから私の異変に気付かなかったみたい。 軽く男性の腕を叩く。 「もう大丈夫ね?心配したわよ。…私は、華村真琴。こっちは私の親友で諸橋香澄。貴方は?」 「僕は清水圭一郎(しみずけいいちろう)です。この近くの心誠学園に通っています」 「だったら私達と大して歳変わらないじゃん!敬語はいいからタメで話してよ。せっかく知り合ったんだし」
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