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それはまだ私が小学生の頃。目を覚ますと、外が何だか暗かった。まだ深夜なのかなと思ったけれど、そんなに眠くはないし、時計を見てみるともう朝だった。まだ雨が降っているのだろうか。天気予報では、夜中の内に晴れると言っていたけれど。
そう思いながら、窓を開けると、雨は降っていなかった。そして曇っていたわけでもない。外が暗かったのは、そこに虹がかかっていたからだ。暗い、というよりも、黒い虹が。私は驚きでしばらく目が離せなかった。夢でも見ているのだろうか。黒い虹なんて、見たことがない。暫くしてからようやく我に返った私は、母を呼んだ。あれを見て!と叫ぶように言う。母は驚いた様子で私の部屋にやってきたけれど、私が指差す黒い虹を見て、あぁ、綺麗な虹ねぇ、と言った。綺麗?あんなに真っ黒なのに?と思ったけれど、もしかして、私がおかしいのだろうか。聞こうにも聞けず、困惑していると、母は、それよりも急ぎなさい、遅れるわよ、と言った。この日は、学校の遠足の日だったのだ。
と、それが私が黒い虹を見た最初の時だった。その時の虹は、消えるまでずっと真っ黒だったのだけれど、その数日後に見た時は、いつものようなきれいな普通の虹で、だから黒い虹は気のせいだったと思ったのだ。けれど、さらにそれからしばらくたった時に、また私は黒い虹を見た。
それ以来、私はたびたび黒い虹を見るようになった。どういう時に普通の虹が見えて、どういう時に黒い虹が見えるのか。それは分からなかったけれど、私には、時々黒い虹が見えるということが普通になって、大学を卒業する頃までは、虹の事なんて気にせずに過ごしていた。虹なんかよりも考えるべきことがたくさんあったのだ。
初めて虹の事について調べてみようと思ったのは、社会人になってから、初めての健康診断の時だった。私は視力が低くてメガネをかけているのだけれど、仕事でパソコンを使ってばかりいるせいか、視力がかなり落ちていて、再検査をすることになったのだ。そこで黒く見える虹の事を話すと、しかし原因は分からず、精神的なものかもしれない、と言われ、精神科に行くことを勧められた。そこで話を聞いてもらうと、ストレスや苦しみ、悲しみなどの感情で、綺麗なものが黒く見えるということもあるのかもしれない、などと言われた。
最初は半信半疑だったけれど、次第に私はそれが真実なのではないかと思うようになった。実際、黒い虹を見るのは暗い気持ちの時が多かったからだ。最初に黒い虹を見た遠足の日も、気が重かった。私は友達がいなくて、遠足のような行事がとても苦手だったからだ。その後も、例えば試験の前日だとか、人間関係で嫌な思いをした時だとか、黒い虹を見たのはそんな時ばかりだった。そもそも私は人間関係が苦手で、嫌な思いをすることが多くて、だから人間関係なんて諦めているような人間なのだ。
もっとも、原因が分かった事で何かが変わったわけではない。ただ、あることを機に、私は黒い虹を見なくなった。というのは、こんな私に恋人ができたからだ。知り合ったのは、マンションの部屋がすぐ近くだったことがきっかけだ。朝顔を合わせる度にただ挨拶するだけだったのが、次第に、話をし、食事を持って行ったり、一緒に食べたりするようになった。それからしばらくして告白され、付き合うことになったのだ。
それから一年と少しの間は、本当に幸せだった。もちろん仕事などで嫌なことはあったりしたけれど、それよりも彼といる事の方が幸せで、だから黒い虹は出てこなかった。いつも綺麗な虹ばかりだった。彼と同棲するようになり、気のせいか、虹はますます綺麗に見えるようになった。けれど、そんな生活が、また変わってしまったのだ。
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