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 今度こそ、って思った。  私のために血を流してくれたこの人が、私の最初で最後の人になりますように、と。 願った。  指先で、彼の唇に触れる。 痛そうなのに、痛がる素振りはない。 「ごめんなさい……。痛いよね?」  その質問は、聞こえないふりでかわされた。 「帰れよ」  冷たい言い方はいつものことだけど。 「帰れ」  こんなに嫌そうに言われるのは初めて。  手も、振り払われた。 「………やだ」 「うざいんだよ」 「…うざくても、まだいるもん」 「うぜー帰れ」 「やだ」  はあぁ、って大きなため息を吐かれる。 「何なんだよ…」 「………好きなんだもん」  一緒に、いたいもん… 「…………」  バーカ、って。 いつもは言うのに。  なんで今日は言わないの… 「お前さ…」 「………」 「何がしたいの?」 「何が、って…」  今は、一緒にいたいだけだよ… 「俺はお前のこと好きにはなんないって」  何回も言っただろ、って。 言う、けど。  私の人生、こればっかり… 悲しいけど、でも。 「それは、わかってる」 「……じゃぁもう帰れって」 「…………」  ………やだ。 「聞いてる?」 「聞いてるよ」 「じゃぁ何で泣いてんだよ」 「泣いてない」 「…………」 「あ~…もう…」  何かつぶやいたのは聞き取れないけど、たぶんめんどくさいって言ったんだと思う。 ほんと、私ってめんどくさい。 ワガママ妹タイプ、でも甘えるのは下手。 好きな人ができたら、その人しか見えなくなる。 嫌がられても、諦められない。 どうしようもないダメな子。 「好きになってくれなくてもいいよ…」  なってくれたら嬉しいけど。 でも、今それを求めたら駄目なのはわかってるから。 「心配なだけだから…」 「……………」  だって、痛そうなのは唇だけじゃない。 ナイフであちこち切られてた。 顔もお腹も、他のところもたくさん、殴られてた。 白いシャツは血だらけだった。 「ごめんなさい…」 「……何が」 「迷惑かけたこと……」 「わかってんなら帰れ」 「…………」  そんなに嫌そうにされたら。 もう帰るしかない…… また、会いに来たらだめだよね…? もう来ちゃだめ、だよね…… そう思ったら、まぶたの縁が熱くなって。 ぼろぼろ、涙がこぼれた。 こういうのがうざいんだって、わかってるのに止まらない。 「…………っ、か…」 「……何」 「かえる……」  ブサイクな泣き顔を見られたくなくて、下を向いてたから。 気付かなかった。 面倒くさそうにそっぽを向いてた彼が、さっとこっちを見たことに。 「あっそ…」  その、表情とは裏腹の素っ気ない返事の音声だけ拾って、また傷付いて。 あぁやっぱり引き止めてはもらえないんだって、打ちのめされて。 立ち上がった。 「ほんとに、ごめんなさい…」  そう言って、足元に置いてあったショルダーバッグに手を伸ばす。 その手がレザーのバッグ触れる前に、反対側の手を掴まれた。 「!?…ゃっ……」  強い力で引っ張られて、気付いたら彼の腕の中だった。 「…………」 「…………」  なに。 な、なにこれ…? なんで私、抱きしめられてる、の…? 「…え、もしかして死んだ……?」  今の、バッグを取ろうとした一瞬の間に。  隕石が落ちてきたとか。  このアパートが爆発したとか?  ……ここって天国だったりするの?? 「……バーカ。ほんとバカだな」  ため息交じりの呆れ声。 どうにか身体をよじって、斜め上を見上げたら。 傷だらけだけど、天使みたいにきれいな顔。 「…か、薫ちゃん…?」  天使みたいだけど、天使じゃないよね…? 「ちゃんはやめろって何回言ったらわかるんだよ?」 「!?い、いたっ…」  ぶに、と鼻を摘まれて。 しかも容赦なく引っ張るから痛くて。 思わず両手を突っ張って抵抗した。 「やめへ、いひゃぃ…」 「………」  この痛さは夢じゃない。 死んでもいない。 それはわかったけど。 好きな人からのこんな仕打ち、あり得ない! 「かぉる、やめ…」  涙は止まったのに涙目で必死で訴えたら、不意に鼻摘まみしてた手が離れた。 その拍子にのけぞったら、視界いっぱいに好きな人が… 「………んっ」  唇に触れた、冷たい感触。 「…!?…!!?」  でも柔らかくて。 ざらっとしたのは、さっき指で触れた血が出てたとこだって気付いた。  目は開けたまま。 超至近距離で、薫の金色の目を見てる。 一目惚れした時の、きれいな目。 それが好きって言ったら、すごくすごく嫌な顔をされたっけ。 自分の顔のこと、便利だとは思ってるっぽいけど嫌いなんだって、だんだんわかるようになった。 「………」 「………」  離れて、少しだけ角度をつけて。 また重なる。 さっきよりも冷たくないのは、自分の熱が移ったんだって、思って。 顔がカッと熱くなった。 キスをしているんだって、思ったらもっと熱くなっていく。 「…ん、ね、ねぇ待って…」 「何で」  離れた隙にわずかな距離を取った。 押し戻そうとする両腕はどうやら通用しないらしく、痛くも痒くもなさそうで平然としてる。 それはともかく、だ。 「薫ちゃ…か、薫?なにしてんの…」 「キスだけど文句あんの」   そう言いながら、瞬きもしないでこっちを見てる。 文句あるのかって訊かれたらそれは。 「ない、です…」 「じゃぁそういうことで」 「…え、ま、待って」 「…何で?」 「何でって……な、何でキスするの…?」 「したいから」 「!?」 「はぁ……もういい?」 「い!?いく、ない」 「じゃぁもうしねぇ」 「えっ」  それはやだ! 「…ぶっ」 「!?」  なになに、何で笑うの!? もうパニックだ。 「何なのお前…」  面白すぎると呟いて、お腹を抱えて震えてる薫。 まさかと思うけど。 「……笑ってるの?」 「………ぶふ、……く…」 「…………」 「笑ってな……」 「うそ!笑ってるよ!?」 「……笑ってねーよ」  そう言って顔を上げた薫は、私と目が合うなり派手に吹き出した。 「ちょっと!」 「だってお前…、何そのふくれっ面…」 「か、薫のせいでしょ!?」 「…ふっふふ…は、鼻は赤いし?」 「!それも薫のせいじゃんっ」  信じらんない! 「もう、もう…っ」  悔しくて、両手を握って。 薫の胸を叩いてやろうと思ったけど、相手は怪我人。 私のせいで怪我した人を叩いたら、私はただの人でなしだ。 「うぅ…っ、もう帰る…」 「駄目」 「だ、だめ…!?」  な、何よ…? 「うん駄目」 「な、なん…」 「決めた。もう離さないから、早急に諦めてくれる?」 「…なにいってんの…?」  あ、頭がついてこない。 私のことは好きじゃないって。 好きにはならないって、言ったのに。 諦めなきゃって思った途端にそんなこと。 やめてよ… 「俺は普通じゃない」 「……知ってるよ」 「誰かを大事にできるような人間でもない」 「…そんなことないもん」  だって、絡まれてるのを助けてくれた。 盾になって、庇ってくれた。 「…………」 「…なに?…ほんとのことでしょ」 そんな顔したって、知ってるもん… 「……俺は誰かを、特別に好きだと思ったことはねーよ」 「………そうなんだ」 「でもお前が離れるのは何か嫌」 「…う、嘘ぉ…」 「…………」  いや、無理でしょ? さっきまで、うっざそう〜にして帰れ帰れ言ってたのにそんな。 え、何その目。 信じろってこと? 無理でしょ…? もはや私の中の疑心暗鬼は全開だ。 なのに。 「………雪音、信じて」  その顔で、声で、言われたら。 「うん…」 信じる。 信じちゃうの!バカでもいいもんっ… 「あの、薫……ほんとに……?」 「一応」 「……ねぇ、ほんとに!?」 「たぶん」 「もうっ、薫!」 「んー…」  キスしよっか?ってなぜ笑顔で訊いてくるのよ? 「し、しないっ」 「ふーん、あっそ」 「…………」 「…………」 「…うそ。…しても、いいょ…」 「………」  …あぁまた。 くすくす笑ってる…  でも背中に回されてる手が、引き寄せようとしてるから。 私を見る目が、優しいから。 「かおる…」 「……ん」  キス、した。 ***** えー… そんな感じで(;・∀・) 雪音と薫のこれまでについては、皆様方どうぞ妄想してくださいませw hino日記で暴露した通り、経緯は書けませんがきっといつか両想い♡な二人の、くっつく瞬間を書きました(*´∀`*) ちなみにhinoの妄想は… 雪音が何度も何度もアタック(古)してるうちに面倒くさくなってきた薫は建前面やめて本性出したけどそれでも雪音は薫が好きで諦めなくて何だかんだと付きまとってるうちに何かあって尋ねてきた雪音が繁華街でやばーな人たちに絡まれちゃって薫が助けに入ったけど人数差でボコボコにされちゃった(でも雪音は守った)っていう経緯(゚∀゚)キタコレ!! …ですw 長(´Д`)ハァ… 次頁は薫バージョンでーす♡
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