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8.
無駄な抵抗だった。
肩を掴んだ手に、強引に振り向かされてしまう。
「…泣くとまじでブスだぞ」
「……ひどい!」
「事実だろ」
「………っ」
薫はほんとに容赦ない。
ていうか、そうやって人をいたぶって楽しんでるっぽい気がする。
今だって、ほら。
ちょっと笑ってる…
でも、笑ってる薫は貴重だ。
意地悪な笑い方だとしても、普段ほとんど笑わない人だから。
それでつい、見つめてしまう。
「……何だよ」
「………別に」
「ふぅん……なぁ」
「なに…?」
薫の笑みが深くなったと思ったら。
「キスしてやろーか」
そんなことを言い出した。
「え!?な、なんで」
「してほしそうだから」
そんなこと言ってない!
…昨日は、言ったけど。
にやにやしながら、こっちを見てる薫。
なんでそんなに楽しそうなの。
「ちょ、…だ、だめだめ!」
近づいてこようとするから、焦って両手で薫の口を押さえた。
「そうじゃないでしょっ、風邪がうつる!」
「…………」
うっ、なんでにらむのよ…
もうこんなにくっついてる時点で手遅れな気もするけど。
でも、キスしたら確実にうつっちゃう。
「してほしいとか、言ってないもん…」
今日は、だけど。
「…言ってたけど?」
「…え?」
「さっき寝てる時」
「…嘘でしょ?」
「言った。かおるー、もっとキスしたいよー、つって」
「!?」
「…そんなにしたかったんだ?」
「!!」
どんだけ欲求不満なの私!
「ちが、ちがう…」
「何が違うんだよ」
「そうじゃなくて、そんな……」
「そんな?」
何?っていう薫は、過去一楽しそうだ。
あぁ、目が。
色が明るくなってる。
光の加減なのか何なのか、薫の目は色が変わって見えることがある。
この目で見つめられたら、もう絶対目が離せない…
「雪音」
「……うん」
「手、どかして」
「…………」
「早く」
そう言いながら、手のひらにキス、した。
力が抜けて、両手を下ろしてしまう。
「……………」
「…そう、いい子」
目を細めて囁く声で、心臓の鼓動が一層激しくなる。
薫の手が、頰に触れた。
やさしく上向かされながら、近付いてくる薫に見惚れて。
「…………」
重なった唇の感触に、目を閉じた。
「……ん、ん…」
「………」
キスは、薫としかしたことがない。
だから上手とか下手とか全然わからない。
私は下手に決まってる、けど。
薫は上手なんだと思う…
気持ちい…
与えられる柔らかい感触と、温かさ。
そういうのにうっとりしてしまう。
「ん……、薫…」
隙間で漏れる自分の声が、自分じゃないみたいだった。
恥ずかしいほど甘い声で、薫を呼んでた。
「…………」
目を開けたら。
今まで見た中で一番明るい色の、薫の両目がこっちを見てた。
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