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五月の風が吹き抜けてる坂道を芹沢美帆は登っていた。
風が坂道を歩く彼女の長い髪を舞い上がらせる。額にはうっすらと汗が滲んでいる。
ふと足を止めて、美帆は空を見上げた。五月の空は突き抜けるように蒼かった。
「あー、もう……なんでまだ五月なのに、こんな暑いんだよ」
美帆の問いかけに誰も答えることはなかった。この坂道には美帆しか歩いていなかった。
脇道には桜の木が並んでいた。
といってもすっかり葉桜になってしまい、花びら一枚すら見えることはなかった。ついこの間まで満開だったのになぁと美帆はため息をついた。
「私、なんでここにいるんだろ……」
美帆は、つい二ヶ月前に高校を卒業した。
大学受験に失敗した美帆は、この春から予備校に通っている。つい三か月前に夢見ていたのは、華やかな大学でのキャンパスライフだった。しかし、いまは予備校と家を往復する日々だ。
予備校での成績も今一つである美帆は自分の未来が全く見えなかった。ただ予備校に行って帰るだけの日々に何も光など見えることはなかった。
「お先真っ暗だな、こんな生活」
また美帆は大きなため息をついた。
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