4

2/3
前へ
/12ページ
次へ
* 「……だ、誰? なに? なんなの、これぇ?」 「突然申し訳ございません。いま周囲の時間を止めさせていただいております。 従って、この場でお話できるのは芹沢様と私だけでございます。個人情報の漏洩はございません。ご安心ください」 「ご、ご、ご……」  唇が、歯が震えてうまく話すことができなかった。この黒スーツの男を見ているだけで美帆は寒気が止まらず、両手で両肩を抱きながら、立ち上がった。この場から逃げてしまいたかった。  一歩、美帆が後ずさりした。その様子を見て男は微笑んだ。 「ご安心ください。私は貴方の身に危害を加えにきたわけではございません」 「そんなの信用できない! 貴方は誰なの? なんでこんなことになってんの? 何する気!? こないでよ!」 「そう一度にたくさん言われても困るのですが……そうですね、一つずつお答えすると、私はホロージュと申します。時空転移サービスの決裁執行者です」 「時空転移サービス……?」  時空転移サービス、という言葉を美帆は聞いたこともなかった。  しかし、思い当たることが一つだけあった。この男の黒い装束と「時空」という言葉から、あの黒いカードが頭の中で浮かんだ。 「二つ目のご質問についてです。なんでこんなことを、ですが、決裁の執行にあたり、他の方々に見えぬよう進めさせていただきたく時間を停止させていただきました。この時間は我々のみ動くことが可能です。時間が止まっているのに、動くことが可能な時間がある……という表現はいささかおかしく思われるかもしれません。時間には階層という概念があり……とこんな説明は余計ですかね。最後のご質問ですね、なにをするつもりかについてです。私は弊社サービスのご利用決裁のために参りました」 「サービス……決裁……まさか……」 「いま芹沢様が考えられているとおりでございます」  美帆は両肩をビクッと震わせた。心の中を読まれたような気がしたからだった。寒気は未だに止まることはなかった。 「弊社のサービスにより、芹沢様は二度、100日前に転移されました。今回はカードでご利用いただいた分の決裁をいただきたいと思っておりまず」  美帆は唾を飲んだ。頭の中でいろいろ考えるうちに、少しだけ頭が落ち着いてきた。 「そ、そういうこと……か。そうね、あんなカードが無料(タダ)ってのはムシがよすぎるのかもね……。クレカみたいなもん? で、いくら? 数万円ってことはないか……もっとすごい額だったりとか?」  仮に、と美帆は頭の中で考える。  この男の要求額が1億円だとしても、宝くじや競馬の結果を覚えてからもう一回、100日前に戻れば精算は可能なはずだ、と。  美帆は男の顔を見た。  年齢は読めないが、白い肌をしたこの男の顔を見ながら「なんて綺麗な顔なのだろう」とそんなことを思う余裕も少し生まれてきた。  男は微笑んだ。その美しさに、一瞬、美帆の心の中で何かが揺らぎそうになった。  続けて、男は首を横に振りながら「いいえ」と言った。 「お支払いに必要となるのは人間の方々でいうお金、貨幣や電子マネーを用いたものではございません」
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加