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*  誰かのクレジットカードなどであれば警察に届けてあげないとな、と美帆は黒いカードを拾った。  表面には銀行やお店のような名前は印字されておらず、名前も書かれていない。裏面にひっくり返すと、何やら英文が書かれていた。 『Do you want to go back to the world of 100 days ago?』  なんだか怪しい英語だなと思いながら美帆は脳内で英文を訳した。 「100日前の世界に戻りたいかー? はぁ、ナニコレ?」  カードには更に続きが書かれていた。 『If you do, please wish strongly for it.』 「もしそう思うなら、強く願えってこと? 100日前に?」  100日前といえば三ヶ月と少し前だ。二月の初旬ぐらいかなと美帆は大雑把に計算した。それは自分が落ちた大学の試験を受けていた時期だった。 「三ヶ月ぐらい前でしょ? 戻りたいに決まってんじゃん!」  そう声にした瞬間だった。  バチッと音がした。冬の時期にドアに触れたときに静電気が走ったときのように。  カードが黒く光ったように美帆は感じた。黒い光なんてあるのか美帆にはわからなかったが、そう感じた。  立ち眩みよりひどい眩暈がして、美帆はその場にうずくまった。アスファルトの上に倒れそうになるのをなんとか堪えてから目を開けた。 「なに、今の……?」  ゆっくりと美帆は立ち上がった。  カードはもう光っていなかった。  持っていた右手も特に怪我などはしていないようだった。美帆は手首をクルクルと回してから、このカードどうしようかなとなんとなく周りを見渡した。  そして、そのとき思考回路のすべてが一瞬、停止した。 「なに、これ……? いま、五月でしょ……?」  そう呟いた自分の口元から漏れた息が白いことに美帆は気が付いた。  周囲の家の屋根には雪が積もっていた。アスファルトの左右の端にも除雪された雪が積み上げられていた。自身もまたネイビーのピーコートを着ていた。コートの下に制服を着ている感覚もあった。  ポケットからスマホを取り出す。手が冷たくかじかんでうまく動かない。この時点で美帆には「そうかもしれない」と思っていたが、「証拠」が欲しかった。  スマホのディスプレイに表示された日付を見て美帆は呆然とした。   『2月4日 月曜日 16:21』  はっきりと暗算できるわけではなかったが、約三ヶ月前の日付であることはわかった。  美帆は確信した。  ここは、100日前の世界だと。    
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