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 この日は、救国の英雄である王太子の結婚式だ。王国の有力貴族の娘と婚姻を結ぶ大事な日。そこに、現れたのは招待されていなかった聖女だった。  聖女は警備を任された騎士たちの間を軽やかにすりぬけ、神殿の中に足を踏み入れた。しかし神殿の中の人々は、聖女がそこにいないかのように振舞うばかり。 「えー、これ、なあに? あたし、何も聞いてないんだけど?」  響き渡る聖女のこの場に相応しくない言葉も、最初は完全に無視されていた。しかし、すぐに腹に据えかねたのか人々が聖女を排除しようと動き出す。ところが、主役であるはずの王太子はそれを許さなかなった。 「やめろ、お前たちは何もするな」 「しかし、殿下!」 「うるさい、黙れ!」  とはいえ王太子の言葉を無視し、何人もの貴族が立ち上がる。慌てる王太子を尻目に、やれやれと聖女が髪をかきあげた。ぱちんと指を鳴らすと、周囲からざわめきが消える。王太子と聖女以外の人間がいなくなった。 「はあ、もう本当にうるさいったらありゃしない。これじゃあ、落ち着いて話をすることもできないじゃないの」 「何をした」 「別に殺したりしてないわよ。そんなことしたら、あんた怒るでしょ」 「……それはそうだ」 「だから最初の約束を守っていい子にしてるでしょ。ほら、ちゃんと誉めて」  王太子は肩を落とし、頭痛をこらえるように静かに頭を押さえた。 「ねえ、あんたに出会った日のこと、覚えている?」 「……忘れたことなどない」 「たった今、約束を破ろうとしたくせに?」  王太子の返事など聞いていないかのように、聖女は楽しげに軽やかな足取りで踊り始める。
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