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(2)
この日は、救国の英雄である王太子の結婚式だ。王国の有力貴族の娘と婚姻を結ぶ大事な日。そこに、現れたのは招待されていなかった聖女だった。
聖女は警備を任された騎士たちの間を軽やかにすりぬけ、神殿の中に足を踏み入れた。しかし神殿の中の人々は、聖女がそこにいないかのように振舞うばかり。
「えー、これ、なあに? あたし、何も聞いてないんだけど?」
響き渡る聖女のこの場に相応しくない言葉も、最初は完全に無視されていた。しかし、すぐに腹に据えかねたのか人々が聖女を排除しようと動き出す。ところが、主役であるはずの王太子はそれを許さなかなった。
「やめろ、お前たちは何もするな」
「しかし、殿下!」
「うるさい、黙れ!」
とはいえ王太子の言葉を無視し、何人もの貴族が立ち上がる。慌てる王太子を尻目に、やれやれと聖女が髪をかきあげた。ぱちんと指を鳴らすと、周囲からざわめきが消える。王太子と聖女以外の人間がいなくなった。
「はあ、もう本当にうるさいったらありゃしない。これじゃあ、落ち着いて話をすることもできないじゃないの」
「何をした」
「別に殺したりしてないわよ。そんなことしたら、あんた怒るでしょ」
「……それはそうだ」
「だから最初の約束を守っていい子にしてるでしょ。ほら、ちゃんと誉めて」
王太子は肩を落とし、頭痛をこらえるように静かに頭を押さえた。
「ねえ、あんたに出会った日のこと、覚えている?」
「……忘れたことなどない」
「たった今、約束を破ろうとしたくせに?」
王太子の返事など聞いていないかのように、聖女は楽しげに軽やかな足取りで踊り始める。
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