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(3)
王太子は砂漠の国で生まれた。もともと彼らの祖国は、緑あふれる美しい土地だったらしい。けれど度重なる干ばつと戦により、大地は荒れ果てやがて砂ばかりの国になったのだという。
かつての美しい祖国を知るものは、もういない。それでも彼らはかつての夢を見る。青々とした森に咲き誇る花々。魚が踊る冷たく澄んだ小川。見渡す限りの砂漠で彼らが何より欲したものは、清らかな水だった。
めったに降ることのない雨を待ち、ひとたび雨が降り始めたならば何をさておいても水の確保に躍起になる。そんな暮らしをしていた王太子は、他国に当たり前のようにある井戸や、川や、海を見て羨望から出るため息を抑えることができなかった。そしてある日を境に、頼みの綱である雨さえ降らなくなってしまったのである。
水がなければひとは死ぬ。
このまま指を咥えて雨を持つわけにはいかない。だが、砂漠の国でできることはもうほとんどない。井戸など掘っても水が出てこないことはわかりきっている。水が欲しいのなら、他国を襲って土地と水源を奪い取るしかないのだ。
王太子は自国の民を守るために、他国の民の命と生活を脅かす存在になることを決意した。自ら望んで化け物に成り下がるのだ。だが彼の決意とは裏腹に、王太子が戦場に出ることはなかった。
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