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「即刻、この国から出ていけ」 「もう、あたしはいらないの?」 「いらない。必要ない」  硬く強張った王太子の顔を見ながら、聖女はくすくすと声を立てて笑った。恩知らずとも言える王太子の言葉など、意にも介していないようだ。  王太子が結婚式を挙げる予定の神殿はどこもかしこも真っ白に彩られていた。けれど今は、王太子と聖女以外誰もいないせいか、妙に寒々しい。婚姻を結ぶよりも、いっそ葬儀において別離を惜しむかのような静けさに満ちている。 「あんたがあたしを求めたのに?」 「俺の知ったことではない」  みるみるうちに、外が薄暗くなっていく。遠くで雷が鳴る音がした。
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