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41 分からないスキルもあったから困っている!
理不尽に怒られた僕はため息をつきながら話を聞き続ける。
護衛対象の皇太子、エクワード・ユルレイ殿下は正義感に溢れ、それでいて冷静沈着な性格をしている。だが周囲が大人ばかりの環境に嫌気がさしているようで、妹の姫殿下を可愛がっているらしいが、男友達がほしいのだとか。
レグザリオさんは「そんな中で、年下で活躍している冒険者の男の子であればきっと殿下も喜んでくれるだろうと…多分そんな思惑があったんじゃねーか?知らんけど」と言っていた。
なんだろう。かなりイラっとしてしまう。適当に決め過ぎじゃない?
「取りあえず殿下とリーゼが前衛、クラウが後衛、だがアレス、お前はなんなんだいったい?盗賊って言うが絶対嘘だろ?」
「ノーコメントで…」
「まあ、詮索はしないが土魔法で盾を作ってたようだが、あの破壊力のある拳は[突く]だろ?」
「まあ…そうですね」
「お前が最後にぶちのめしたテドルスキだが、アイツも[突く]を持ってるからな。とても同じスキルには見えないよ。まあ詮索はしないがな…」
僕は自分のクラスなどを素直に言った方が良いのか迷ってしまう。多分だけど言わない方が良い気がするので今は黙っておこう。
「とりあえず、お前は遊撃として待機して、いざとなったら殿下を守れ」
「分かりました」
そして色々細かな条件を決め、1階へ降りてゆく。
出発は新年開けの1月5日。食料や野営の備品類はあるが、2週間を想定して各自必要なものがあれば持参。報酬は無事に終われば白金貨2枚で、後は今後の殿下のお友達になれるかもしれない権利。だそうだ…
喜んで良いのか分からない条件に、何度目か分からないため息をつきながらカウンターへとたどり着く。
「おお!来たか!」
リオールさんの隣にはあの解体所のおじさんが待っていた。
「素材の査定は終わってるぞ。しかしお前はまだガキなのにつえーな。今後もマペットの素材は大歓迎だからな」
そう言いながら豪快に笑いながら奥へ引っ込んでいった。
リオールさんに聞くと、あのおじさんは解体所の長をしているシルベスタというらしい。
時刻はもう夕刻を大きく過ぎ、ぼやぼやしてたら日付をまたぎ夜刻となる。リオールさんから今日の報酬である金貨40枚を受け取ると、遅くまで残ってくれていたお礼を伝える。
リオールさんは「こうやって遅くまで残ることも良くあることよ」と笑っていた。さらに「ただ座っているだけで残業代が貰える簡単なお仕事」とも言っていた。まあ確かにそうなんだろう。
精神的に疲れた体を動かし宿に戻ると、シャワーを何とか浴び、いつもの様に歌い、そして眠りについた。
◆◇◆◇◆
「なあおい!あれは何なんだ!」
「何と言われても、俺はミューズのように鑑定が使えないので何とも言えんよ。ただ単にかなり強い新人、としか…逆にどうだったんだ?」
俺は、目の前の会長、ミューズが机に突っ伏しながらぼやいているのを眺めていた。こうした砕けた態度になるのは数少ない素を知る人物の前だけである。俺はミューズとは昔からの中だ。
2人きりの場合は、こうして呼び捨てで話しかけないと無視されるぐらいには親しい。それよりもいい加減、鑑定結果を早く聞きたい。
「あれは、化け物だ…」
「そこまで高い能力値だったのか?」
「いや、そういう意味ではない。能力値はむしろ低い方だった…だが、もうレベル49?早すぎる!他の2人はやっと30になったところ…ここからさらに上がりづらくなるだろうし…やつだけが異常だ!」
確かに、1年も経っていない新人がレベルがまもなく50…早すぎる。通常は頑張って20ぐらいまでならすぐに上がる。だがそこから徐々にレベルが上がりずらくなり、1年で30超えるのがやっとだろう。
もちろんベテラン冒険者の中には100を超えた奴らもいるが…
「どれだけ格上の魔物と戦い続けたんだあいつは…それとも経験効率上昇のスキル持ちか?」
俺がぼやいた俺の言葉にミューズが顔を上げる。
「それ系は多分持ってないだろう」
「多分ってなんだよ。視たんだろ?」
「分からないスキルもあったから困っている!」
「いや、そもそもアレスのクラスはなんだったんだ?盗賊というのは嘘だったんだろ?」
俺の言葉にため息をつくミューズ。
「大盗賊…」
「なっ…ステイルレインの再来、か…」
言われた俺は、大盗賊ステイルレインを思い出す。嘗て大盗賊として魔物からスキルを奪い、そしてそれを仲間に与え、女性を拐かしまくってハーレムを作った厄介な伝説がある男。
もう50年ほど前の話だ。眉唾な伝説の数々が残っているが…
「ステイルレインであれば、奪ったスキルを育てることはあまりできなかったと言われている。通常と同じように厳しい訓練の元、熟練度を上げ、そのスキルのレベルを昇華してゆく…
スキルが多いからと言って無敵と言うわけでは無かった…だがあれは…[突く]がすでにMaxとなっていた…」
その言葉に驚きのあまり口を開け、数秒の前を置いてようやく「嘘だろ」と口に出すことができた。
「恐らく、スキルのレベル上限は5なんだろうな…ほかに、Lv4のスキルが並んでいたから多分そうなのだろう」
何気にこの世界の謎となっているスキルレベルの上限が今判明したようだ。
「低いLvのスキルなら他にも、疾風、物理耐性、剣術、回復もあったか、使ったという岩の盾もLv3+1とあった。あれはなんだ?その+1ってどういうのはどういう意味なんだ?」
「俺が、分かるわけないだろ」
聞いただけでも驚愕だが、ももちろんまだ他のスキルもあるのだろう。決闘を見た限りじゃ相手も威嚇するようなスキルもあるはずだ。
「他にLv4なっていたのだけでも、睨む、毒耐性、毒棘があった。全部で20個ぐらいのスキルを持っていた。魔物からスキルを奪えるのは確定だろう。さすがに殿下の護衛を言い出すのに躊躇した!」
また顔をデスクに打ち付けるようにしてぶつぶつ言い出すミューズ。
「悪用するような奴には見えないが…」
「それは、大丈夫だ。あれの周りに精霊が3体ほど、良くなついている。根本的な性格として悪さをするような正確では無いのだろう。もうこれは…成るようになるしかないのだろうな」
顔を伏せたままそう言うミューズ。
エルフ特有の眼により、悪意を持った人には寄り付かない精霊の光が見えるというその言葉を信じ、何事もなく終わるよう願うしかないことだけは分かった。
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皇太子、エクワード・ユルレイ殿下
聖剣士クラスの11才。正義感に溢れ、それでいて冷静沈着な性格。最近は大人ばかりの環境に嫌気がさしているようで、妹の姫殿下を可愛がっているが、現在の願いは愛称で呼び合うような男友達がほしいのだとか。風見の塔で訓練を重ね、レベルも20となっている。
大盗賊ステイルレイン
彼がこの世界の表舞台から姿を消したのは50年ほど前。魔物からスキルを奪い、そのスキルを他者に付与することができたらしい。だがそのスキルレベルを上げるのは通常と同様、地道な努力が必要となる。
精霊さん
この世界では至る所に精霊さんが飛び回っている。一部の精霊の眼を持つ主にエルフにしかその姿は見えない。悪意には敏感に反応するので、精霊さんが懐いている人には基本悪意がない。
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