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32 僕、もう待ちきれなくてウズウズしてるよ!
さすが王都の迷宮。
入り口前のスペースには人で溢れている。
「15階層2名でーす!パーティなしでー!」
「5階層に1名あるよー。パーティもいかがー。前衛間に合ってるけど、回復職なら優遇するよー!」
「20階層だ!4名で1人金貨5枚!早い者勝ちだ!」
「誰かー、パーティ無しで8階層に1人、入れてもらえませんかー!謝礼にこの魔石1でー!」
何やら手書きの紙を持った人たちが叫んでいる。
「あれ、何だろうね」
「あれは、ワープゲートを使った移動の募集ですね」
「ワープゲート?」
「この大迷宮の休憩スポットは20階層と21階層の間と言うように、20階層ごとに存在します。なのでその間に記録しておいた地点、ワープゲートと言う魔道具の登録地点に移動するための仲間を募集してるのでしょう。
さすがに王都の大迷宮については教会の書にも記載がありました」
少し得意げなクラウがそう教えてくれた。「さすがクラウ」と感心すると、クラウはさらに説明を続けてくれた。
「ワープゲートはギルドでも金貨3枚で売っているので、それほど高いものではありません。5名まで一気に転移できるので、ああやって余った分を分けたりすることで謝礼を貰ったり、後はパーティ募集の呼び餌にしたりするようです。
20階層4名と言う人は、完全に商売として行っているのでしょうね」
なるほど。じゃあ僕らも3名の空きのあるところに加われば…いややっぱり1階層から地道に行った方が良いか。僕のスキルの為にもね。
「よう嬢ちゃん。中々物知りじゃねーか!」
そんな僕たちに突然見知らぬ男に声を掛けられ戸惑う。だがさりげなく僕は2人の前に出る。
「だが見ない顔だな。どうだい?こっちは3人。前衛に索敵、神官だ。お嬢ちゃんたちは前衛に魔法使いだろ?2人なら20階層に、歓迎するぜ!」
その男の後ろには同じようにニヤついた男が2人。どちらも神官のようには見えないけど…人を見かけで判断するのは良くないけど、あきらかに怪しい。
「大丈夫です。僕たち1階層からゆっくり行くので…」
「ガキ!お前には聞いてないよ!」
3人の男がさらに近づき圧をかけてくる。いざとなれば[突く]で…
「ガキ虐めてんじゃねーよ!」
背後から別のパーティと思われる男から声がかかる。
「ちっ!関係ねーだろ…」
そう言いながら、凄んでいた3人は僕たちから離れて行った。
「ありがとうございます!」
僕は助けてくれた男性にお礼を言うと、僕らを値踏みするように見てから無言で元のパーティメンバーと思われる人たちの元へ帰って行った。
「ガキが分不相応にチョロチョロしてるから絡まれるんだ!」
元の場へと戻った男性から、そんな声が聞こえた。
「なんだか、感じ悪い人たちばかりに見えますね。さっきからジロジロ見られているようです」
「仕方ないよ。僕らは見た目はガキなんだろうしね」
「私たちだってブロンズ級なのに!」
リーゼが悔しそうに地面に八つ当たりしていた。
「気持ちを切り替えて、早く大迷宮を体験しようよ。僕、もう待ちきれなくてウズウズしてるよ!」
「そうだよね!早く行こう!」
「はい!行きましょう!」
こうして、僕の背丈の何倍もあるであろう大きな穴を抜けると、モレノの迷宮と同じように何とも言えない不快感を感じて広い空間に出る。ここも混雑している様子で、新たに入ってきた僕たちにまたジロジロと視線が投げかけられた。
「あそこだね!」
あえてその視線には無視をして入り口まで歩く。
目の前には、草木が生い茂る平原が広がっていた。
「大迷宮の10階層までは、平原と林エリア、所々に湖が点在します。出現するのはゴブリン、スライム、ワイルドボア、ブラックシープ。
また、8~10階層には稀にレッドバッファローの群れが出るそうですが、遭遇するのは本当に稀でお肉が高額で売れるようです。機会があれば取り尽くしてしまいたいですね」
またクラウが詳細を教えてくれる。
モレノの迷宮の時は僕が色々と調べていたけど、クラウの方が頭も良いし、任せてもいいのかな?
それにしても美味しいお肉か…ぜひ狩ってみたい!リーゼは「お肉!」と叫んでるが、僕は大人しくしていよう。女の子はセーフだけど、男が卑しいと様に成らないからね。
「ありがとうクラウ。強さは戦ってみないと分からないよね。クールビレと同じように考えたら危険かもしれないから、一応警戒だけしていようか」
「そうですね」
「そうしよー!」
こうして平原を迷子にならない程度に動き回る。
今回はギルドから資料は購入しなかったから、適当に取り出したメモに略図を書いてゆく。適度に木々が生えているので迷うことはないだろう。
そうして彷徨いながら進むこと10分。
やっと他の冒険者がいない場所での魔物との遭遇となった。さっきから人が多すぎてブッキングしてばかりで、もう少し階層を上げておきたいと思った。
その最初の獲物となったのはゴブリンとスライムであった。というかゴブリンがスライムに絡まれ死にかけているようだ。
剣を持ちそれをサクッと[疾風]でまとめて狩ってみる。
スライムの魔石と一緒にゴブリンの首を落とし無事討伐に成功した。どうやらスキル玉は出ないので、クールビレの迷宮などにいるものと同種のようだ。
それほどレベルは高く無いようなので、サクサクっと進もうと思った。
「大したことないからサクサク行こうか。2人も見つけ次第やるってことで…」
「分かりました!」
「はーい!」
結局ゴブリンとスライムの屑魔石はそのまま放置し、あまり離れないようにしながらも各自で探索を始める。やはり他の冒険者とブッキングしてばかりだが、先の2種の他、ワイルドボアにブラックシープも見ることができた。
早く狩ってどんなスキル玉、能力玉がでるか知りたくて仕方がない。
それから暫く探索を続ける。
新種はまだ狩れていないが3階層までたどり着いた。
そして都合よく3匹のワイルドボアと遭遇する。3匹をそれぞれが仕留めると、最初に攻撃が当たったクラウが狩った分からスキル玉が出た。
「やりました!あれ、スキル玉ですよね?」
「おお!」
「そうだね!さっそくつんする?」
クラウがうなずきながら走ってくると嬉しそうにつんしてから僕を見る。
―――スキル[突進]を覚えました。
――――――
[突進/Lv1/強烈な突進攻撃]
――――――
「突進だって」
「うーん。微妙ですよね」
「でも見てみたい!」
取りあえずやってみる価値はある。
そしてまた探索すると、単体のゴブリンと遭遇。2人のワクワクした顔に後押しされながら[突進]を繰り出すと、[疾風]と同じように勝手に体が動き、そのままゴブリンに体ごと突っ込んでいった。
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王都の大迷宮・ユルレイヒル大迷宮/1~10階層
平原と林エリア、所々に湖が点在。出現するのはゴブリン、スライム、ワイルドボア、ブラックシープ。また、8~10階層には稀にレッドバッファローの群れが稀に出現。低階層の為、多数の冒険者たちにより賑わっている。
ダンジョンワープ
金貨3枚で冒険者ギルドにて販売中。5名まで印をつけた場所とをつなぐ。大迷宮専用の魔道具。もちろん他の場所にはそれ用の魔道具があり。指定の場所で筒状の魔道具の底を地面につけ魔力を流すと、一瞬小ぶりの召喚陣が地面に表示され消える。後は筒を折ることで発動、その場所へ体を密着させた5名までを瞬時に転移させることができる。たまに転移酔いすることも…
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