37 このまま、私にそれを譲渡する感じで…

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37 このまま、私にそれを譲渡する感じで…

またもやってきた焼肉店。 少し時間が早かったのかそれほど混雑はしていない『焼肉のバハムート』で、エルクとゴールデンエルクの肉をカウンターに出す。 ゴールデンエルクの肉と言って出した時は店員に驚かれたが、それらを全て下ごしらえ、他にも野菜やご飯、飲み物を注文した。 そしてその美味しさに興奮しながらお腹を満たしていた。 金貨は3枚しか使っていないというのに最高の焼肉を堪能できた。持ち込み焼肉最高!と叫びたいぐらいである。 お肉は鮮度も考えて冷魔蔵庫に入れてもらい、小出しで出してもらったのだが、食べきれなくて3分の1ぐらい残ってしまったようだ。 落ち着いた頃、「お肉、余ってしまいましたがどうしますか?」と確認するお店の人の期待の目に負け、「そのままどうぞ」と言うと笑顔で「ありがとうございます!」とお礼を言われた。 そして「賄いに使わせて頂きます!」と付け足すと、周りのお客さんからはブーイングが起こっていたが、店員さんは素知らぬ顔をして裏へと戻っていった。 その後、サービスなのかカップに入った果物の氷菓子が出てきたので、口の中が油ギッシュだった僕たちのお口直しにはぴったりで美味しかった。 「金鹿ちゃん凄かったね。無限に食べられる感覚になって限界まで箸が進むから、明日は運動しないとお腹、やばいことになると思う」 リーゼが少し出ているお腹を押さえてそうぼやく。 僕もそう思う。3人で僕の体重ぐらいはあったゴールデンエルクの肉を、3分の2は食べきったのだから。途中、エルクの肉も少し食べたがそちらはあまり箸が進まなかった。口が贅沢になってしまうと後々大変そうだ。 「明日も20階層に戻ってゴールデンエルク狩る!」 「リーゼ?そんなに簡単に狩れるものでもないんですよ?」 「そうなの?」 リーゼが首をかしげている。相変わらず可愛い。 「はい。それなりの数の冒険者たちがそれを狙ってますし、それでも高額になるほど湧かないのですから…それより明日も先を進めましょう。アレスの[統率]スキルも気になりますし…」 リーゼを撫でながらクラウがそう言うが、僕もその効果が気になっていた。多分2人も強くなれそうなスキルだ。 「アレスが[統率]を獲ってから体が少し軽く感じています。多分そういう効果があるのでしょう」 「それは思った。なんか1段階上がった感じがしたもん!」 やっぱりそう言った効果があったんだな、と思いながら2人の会話を聞いていた。 そんな話をしていると、すぐに宿へ到着しそのまま部屋へと戻る。 2人はいつもの様にバスルームに直行したので、僕も順番を待つべく椅子に腰かけたのだが、疲れからかウトウトしていたようで、気付けば2人に揺り起こされた。漂う良い香りが心地よかった。 そしてシャワーですっきりすると、ベッドに腰掛け能力板(スキルボード)を出し、[突く]の欄にあるMax+1について考える。これはその上もあるのだろうか? 「アレス、その+1って、誰かに譲渡できたりしないのでしょうか?例えば『親愛』な私たちになら…」 思ってもみなかった案に少し感動してしまう。 「どうだろう。やってみる価値はあるかも…」 そう言いながらクラウに向けて[突く]を譲渡できないか彼是考え願ってみる。 さらにクラウの手を握り、同じように譲渡できないかと思考を繰り返す。 「うーん。譲渡しようと色々やってみたけど上手くいかないや」 「そうですか…」 そしてクラウが何やら考えてから、僕に顔を近づけ「えい!」という言葉と共に抱き着かれた。良い香りにクラクラする。 「このまま、私にそれを譲渡する感じで…」 真っ赤なクラウの耳と同じぐらいに自分も赤くなっているなと感じつつ、邪念を払うように[突く]を譲渡しようと彼是また考えてみる。 「だめ、かな」 僕のその言葉にがっかりしつつも体を離すクラウ。 「じゃあ次は私!」 「そう、ですね。スキルの相性とかもあるかもしれないですし…」 そして僕に抱き着いてきたリーゼ。その柔らかい体の一部に頬が緩みそうになるが、必死で邪念を払い譲渡を試みる。 「やっぱりだめかな」 「ぶー!」 不貞腐れながら体を離すリーゼだが、その顔は赤く染まっている。 結局、まださらに上があるのか無駄に余っていくのか、それとも譲渡にも条件があるのか、色々考えても当然ながら答えは出なかった。いずれ何か分かる時がくるのかもしれない。そう思いながら考えることをやめた。 そして昨夜と同様に川の字になり何度か歌わされ、温かい両側の感触にドキドキしながらも眠りについた。 ◆◇◆◇◆ 翌日、目が覚めるとすでに2人は居なかった。 バスルームでは2人の声がするので、ゆっくりと伸びをして体をほぐす。そして今日はどうしようか考える。 もちろん大迷宮を進むのだと思っていたが、ふと王都に来てから依頼なんて一切受けていないな、と思い出した。素材の買取でもポイントは貯まるので冒険者ランクは上がるようだけど、依頼を受けた方がポイントは多いとローラさんは言っていた。 詳しい仕組みは内緒と言われたが、ローラさんが言うなら嘘ではないだろう。 どうせなら目指せSランクで頑張ってみるのも良いのかな?と考えたところで「いや、そもそも僕はのんびりした人生を楽しむんじゃなかったのか?」そう一人つぶやいてみたが、もはやそれはどうでも良くなっていた。 今は2人がいる。そして魔物を狩るほどに強くなる僕のクラスの力も理解している。ならば今は目一杯頑張って、将来のほほんと生活できるようにしたら良いのでは?と考えてみる。 それは僕たち3人で幸せに暮らすためにも必要なことだと思った。 「アレス、何唸ってんの?」 気付けばリーゼに顔を覗かれていた。 「いや、今日はどうしようかなって」 慌ててそう答えておく。 「今日もまた大迷宮を先に進めて、新しいスキルを集めるのではないのですか?」 クラウが首をかしげそう尋ねてくる。 「そうなんだけど、王都に来てから依頼って受けてないなって思ってさ。冒険者ランクももっと上げてみたいかもって…」 「確かにそうですね。でもオークションのお金も入ってきますし、今更ランクを上げてもと言う気もしますけど…高ランクになれば貴族や国から指名依頼がきたりするのも面倒そうに思えますよ?」 確かに…国からの依頼を断ったりしたら平穏無事には済まないだろう。 「じゃあ、やっぱり適度に素材で稼いで、逆にランクを上げないようにした方が良いのかな?」 「そうかもしれないですね。どうせBランクに上がるには試験があるので、受けな狩れば永遠にCランクのままです。それなら指名依頼も入りませんので自由がききますよ」 「なるほどね。2人もそれでいいのかな?」 うなずく2人を確認し、僕の中では『適度にお金を稼いでゆったりのんびりな人生を』というルートが確定した。 「じゃあ今日はまたお肉を狩りに行こう!」 リーゼは朝から元気だ。 話し合いを終え、手早く支度をしてから食堂へ降りる。 そしてザックさん達と再会した。 ------------------------------------------------------------ 王都の大迷宮・ユルレイヒル大迷宮/21~30階層 レンガのような茶色い壁の迷路が続く。道幅は広くところどころ魔物だまりがある。 ストーンゴーレム 3m程度の石のゴーレム。固い拳での攻撃を繰り出してくる。固有スキルは今のところ不明。『硬』の能力玉が出る。素材は中サイズの魔石のみ。
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