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40 王族と対等なわけはないだろ!
3人をさくっと倒した僕は、クールビレの事を思い出してしまう。
多分あれも軟膏なんかでは治らないだろうからまた神官さんがくるのかな?あのふとっちょは神官っぽいけど、真っ黒な祭服だから治癒とかできるのだろうか?
そんなどうでも良いことを考えながら、観客の拍手に迎えられ入り口まで戻ってくるが、一部から「終わるのはえーよ!」「もう少し手加減してやれやー!」と言った声が聞こえてきた。
こっちは腹ペコで早く帰りたいんだから、好き勝手言わないでほしい。
少しだけイラっとしてしまった僕も、笑顔のリーゼとクラウに癒され、そしてリオールさんには頭を撫でられる。ギルドマスターさんには「予想以上だな。お疲れさん」と声を掛けられた。
予想以上の観客がいたので、これで僕たちに絡んでくる人も少なくなればと思った。かなり精神的にも疲労感があるけれど、そう思えば成果としても十分であろう。
「さっ、帰ろうか?」
2人に声を掛け、夕食の事を考える。あ、それはそうとまだ今日の買取金まだ貰ってないな。カウンターでもう受け取れるかな?と考えていた。
「いや、お前たちはちょっと一緒に来てくれるか?」
ギルマスさんからそう声をかけられる。
どうやらまだ帰れないようだ。腹ペコな僕はお腹が鳴ったらどうしようと不安がいっぱいの中、「レグザリオだ!」と紹介されたギルマスに案内され階段を登る。当然リーゼとクラウも両隣を歩く。
たどり着いた2階をスルーして3階へ。
そして扉をノックして部屋へ入ると、広い部屋には豪華な家具が…儲かってるんですね。
そして奥には女性が一人…思わず見惚れてしまう。
「遅い時間に申し訳ありません。冒険者ギルド本部の会長をしております、ミューズ・ノルドオバストと申します」
美しい音色で話すその女性は、若草色のふわりとしたドレスを身にまとった、美しいエルフだった。
頭を下げ終えた後、その特徴的な長い耳がピコピコ動き、それも眺めてしまった僕は挨拶を返すのが遅れてしまう。
そして両方の脇腹がつねられる痛みにより、意識を現実に引き戻された。というか特に左側のリーゼが全力なのか、外殻が全損したのでもうゆるしてほしい。
「ア、アレスと申します」
「クラウディアです。よろしくお願いいたします」
「リーゼロッテです!よろしくお願いします!」
戸惑いながら返す僕に丁寧に頭を下げ挨拶をするクラウ。そして元気よく右手を上げて挨拶をするリーゼ。その光景に目の前の女性、ミューズさんが「ふふふ」と笑っていた。
「まあなんだ。座れ」
そう言ってレグザリオさんが目の前の椅子を手で指し示す。
丁度3脚用意されている椅子に、少し緊張しながらも座る。
すると扉がノックされ、「失礼いたします」という声と共に、メイド服を着た女性が2人、ワゴンに美味しそうな香りを放つ料理を運んできた。
「お食事がまだでしょうから、話は食べながらでもいたしましょう」
そう言われ、リーゼは両手を上げて喜んでいた。僕も内心一緒に喜びたかったが、恥ずかしいので丁寧にお礼を言うにとどめた。というか何時から呼ばれる予定だったのだろうか?
「残念ながらゴールデンなエルクさんはご用意できませんでしたが、それなりの物を急遽ご用意いたしました。本当はああいった高級食材が少しでも納品があれば良いのですけど…中々難しいものですね」
ゴールデンなエルクさんのお肉を全取りした僕らへの嫌味なのだろうか?
ニッコリ笑顔のミューズさんを見て、やはり冒険者ギルドのトップなのだろう地位の人は怖いなと思った。そんな、それなりに美味しい料理に口にしながら、まず話は先ほどの決闘についてとなった。
「アイツらは西の外れのニガリッソ男爵の支援するクランのメンバーでな。今後、嫌がらせがあるかもしれん。何かあればギルドを頼ってくれ。あいつらには結構難儀しているからな」
思ってもみなかったことに戸惑う。
「一応、冒険者ギルドとしては貴族と対等の立場ということになっている。だが、ある程度の忖度も必要なのだ。今回の事だけで男爵家まで罰することはできんが、これ以上のちょっかいがあれば、男爵家程度ならどうとでもなる」
「分かりました」
言葉の意味としては分かったけど…また厄介なことになりそうな予感がしている。
「今回お呼びしたのはもう一つありまして、指名依頼を受けて頂けないかなと思いお声がけさせて頂きました」
「指名依頼、ですか?」
突然のことに戸惑う。僕たちはブロンズ級とは言え、まだ1年も経っていないひよっこ冒険者だと思うんだけど…
「そこからは俺が話そう」
そう言って始まった長々とした説明。本当に厄介事でしかないけれど…
大まかにいうと、皇太子殿下の護衛任務だ。
年明けに開催される一つ年上の11才となる皇太子殿下の、実践経験を積むための王都北部の魔の森の探索に同行してほしいとのこと。もちろん奥までは入らず無理のないエリアの探索により、2週間程度の実践経験を積むとのこと。
殿下は昨年の4月に聖剣士のクラスを授かってから、この1年半で森の手前にある風見の塔で訓練を重ね、レベルも20までは上げてあると言う。護衛の聖騎兵も多数ついてるので特に危険も無いのだという。
だが、通例としてパーティメンバーを想定した仲間には、冒険者に協力してもらうのだが、殿下が年配冒険者であることを拒否したという。それで若年層の冒険者で最低限自分の身を守れるものをと探していたという。
そして丁度先ほども城から担当の聖騎兵の一人が来ており、決闘の様子を見て「あれでいいんじゃないか?年も近いし」と指名されたのだと…ちなみに僕たちに拒否権は無いようだ。
さすがに「さっきまで貴族であっても対等だと言っていなかったでしょうか?」と聞くと「王族と対等なわけはないだろ!」と逆に怒られた。理不尽だと思う。
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レグザリオ
王都の冒険者ギルドのギルドマスター。2m超えの大きな体にもうすぐ60という年齢にも関わらず、全身が鍛え上げらてた筋肉。元Sランク冒険者で闘士からの派生クラス、重闘士クラスで[鉄人]という二つ名で呼ばれていたらしい。
ミューズ・ノルドオバスト
冒険者ギルドを統括する会長。エルフ種で年齢不詳。西のベイリン子爵領の北部にあるエルフの森出身ということだけは分かっている。エルフ種との橋渡しのために王都で重責を任されているようで…
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