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エピソード⑫
山の中を進むたびに、出現する魔物達の強さも上がって来ている。
「ジレーネ様、進言してもよろしいですか?」
「当然、構わないですわよ。そんなにかしこまらないで頂戴」
「承知致しました。では、今日はここら辺でお休みになられる事を提案致します」
「あら……わたくし、そんなに無茶を? 止めてくれてありがとう。ウィルフレッド」
「いえ……」
それだけ告げるウィルフレッドに視線を向けつつ、ジレーネが魔法で結界を張る。野営の準備だ。
野営の仕方はウィルフレッドから教えてもらったが、結界等の魔法は魔女アリアーヌからだ。
テントの設営自体は、ウィルフレッドが慣れた手つきでやってくれている。
故に、ジレーネは結界を入念にかけるだけで良かった。
「ありがとう、ウィルフレッド。料理はわたくしが作りますわ」
「承知致しました。何か必要な物はございますか?」
「そうねぇ。ではボックスを出しますから、そこから必要な素材を用意してくれるかしら?」
「承りました」
短い会話だが、それでも彼が答えてくれる事に嬉しさを感じていた。
ウィルフレッドは多くを語らない。だが、ジレーネを決して蔑ろにしない。
そこが彼の良さなのだと、ジレーネは最近ようやく気付いたのだ。
(わたくし、人を見る目が少しは養われたのかしら? そうだといいのですけれど……)
魔法で銀色のボックスを呼び出すと、そこからウィルフレッドがジレーネの指定した食材を取り出していく。
今日は、魔女アリアーヌが教えてくれたスパイスたっぷりの、スープとパンだ。
この料理をはじめて食べた時から、ジレーネは虜になってしまったのだ。
もっとも、ウィルフレッドの好みかどうかはわからないが。
(彼、食の好みを聞いても教えてくれないのですよね……せめて苦手なものくらい……知りたいですわ)
そうしているうちに、料理が完成して行く。
大きめな銀の鍋に、焚火の炎が暖かい。この火も、魔法で焚いたものだ。
(つくづく便利ですわね。でも、故に理から外れているのでしょう……魔女という者は)
自分はもう、皇女ではない。
だから……本来なら、ウィルフレッドがジレーネのそばにいる理由はない。
それでも彼がそばにいるのは、任務を全うしようという想いだけなのだろうか?
(真意を知りたいものですわね……出来れば、良い方向である事を願いますわ)
本当は怖いのだ。
――ウィルフレッドにも、実は裏切られているのではないかと。
そんなジレーネの不安を察知したのか、リヒトが近くに来て、静かに見守るように見つめていた。
「ふふ、ありがとう。リヒト」
そんなやり取りを視界に一瞬入れると、ウィルフレッドは剣の手入れを始めるのだった……。
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